富士山の頂上で、鷹さんが営む茄子農園に弟子入りする夢を見た。
新年早々なんと縁起が良い事だと思いながら鷹さんと焼き茄子片手に現在のマフィア社会について語り合っていたら、
突如腹部に内臓が潰れんじゃないかって圧力の核弾道が撃ち込まれて富士山もなにもかも吹っ飛んだ。
目を開けたら腹の上に最愛の人が居た。


「おはよう」

「おは…、ぅ、恭弥、退いてくれねぇか」


なるほどいくら細っこいとはいえ成人男性の全体重が掛かれば、
内臓なんて容易くぺったんこだと危機感を覚えながらも冷静に考える。
涼しい顔をして退く気などさらさら無さそうな恭弥は依然馬乗りになったまま、
上体を傾けて不敵に笑いかけてくる。


「起きなよ」

「誰かさんが乗っかってて、起きれるもんも起きれねぇよ」

「姫始め、しよう」

「あ?」


恭弥が掛け布団を引っ剥がす。寒い。
そして再び俺の身体を跨いで、ご丁寧に体重を掛けて、
今度は寝間着を引っ剥がした。寒い。


「おま、なにして」

「だから、姫始めだって言ったろ」

「姫始めって、2日じゃなかったのかよ」

「そうなの?」

「…お前が10年前に言ったんだろ」

「知らないな」

「お前なぁ」

「僕はしたい時にしたい事をする。暦なんて関係無いよ」

「自由過ぎるだろ」


すっかり前をはだけられて、寒さに震える間も無く恭弥が擦り寄ってくる。


「最近仕事仕事でご無沙汰じゃない。正月くらい、有意義に過ごそう、」

「正月休みはセックス休暇じゃねぇぞ」

「ほんとは昨日だってしたかったのに、あなた、とっとと寝ちゃうから、」


むぅ、とむくれた頬、尖らす唇、
もう25の立派な大人だがなんとも愛らしい。
10年でずいぶん、いやだいぶ、いやかなり積極的になった恭弥は、
しかし10年経ってもこういうところは変わらない。


「わかったわかった、お前が満足するまで可愛がってやるから、」

「ほんと?」


にやり、浮かべる悪い笑みさえ妖艶で綺麗だ、くらくらする。
…いやでも、このくらくらは、なんかおかしい。


「とりあえず、ちょ、退いてくれ…」


肺が圧迫されて呼吸がうまくいかない、
うっかり意識を手放しかけたら少し腰を持ち上げた恭弥がどすんと落ちてきて現実に引き戻される。
もちろんダメージは増える。


「う、おま…」

「僕の目の前で寝正月なんて良い度胸だね」

「寝るっていうか、失神に、近い…」


子供がベッドではしゃぐみたいに身体を上下に揺らし、
あぁ本当に最中だったらこんなに扇情的な事は無いのにと霞む意識で思う。
するとふいに動きを止めた恭弥が顔を寄せてきて、
唇を触れ合わせるだけのキスをした。


「…今年初めての僕は要らない?」

「要る、超要る」

「だったらまだ朝だけど、良いでしょ」


恭弥の細い腰に手を這わせたら黒曜石に挑発の色が混じる。
そのまま着物の内側に潜り込み白い肌をくまなく撫でて、
10年間で知り尽くした性感帯を虐めて回る。
楽しそうに甘い声を降らす恭弥に今度こそ正しくくらくらした。
いよいよ我慢も限界で直に彼を煽ろうとしたら、
恭弥がふと思い出した様な顔をした。


「…どした?」

「今年も」

「ん?」

「今年もよろしくお願いします」

「…今更だな」

「失礼な、」


不機嫌そうに歪んだ唇が噛みついてくる。
相変わらず照れ隠しの下手くそな子だ。
触れに触れる肌同士が擦れ合う度に互いの体温が上がっていく。

今年も、じゃなくて、これからもずっと、の間違いだろ。









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