あなたはひたすら真っ白に見えた。 隣に立つ女のドレスが反射しているせいだろうか。 あなたは恭しく女の手を取って、 細くて綺麗なその指に、 華奢なエンゲージリングをはめた。 誓いのキスに、二人は大きな拍手で包まれる。 僕はそれを、遠巻きに見ている。 ちょうど一月前の晩が僕らの最後の夜だった。 あなたも僕も、今日の事は何も言わなかった。 ただただ、もう二度と触れられない肌を、 この身に刻みつける様に求め合った。 睫毛を濡らす涙が何故だかいつもより多くて、 重力に勝てずにシーツに流れた。 あなたはいつもみたいにそれを唇で拭った。 ふいに視界が歪んだ。 どうしてだろう、あなたに突き上げられてるわけじゃないのにな。 こうなる事は分かっていたのに。覚悟していたのに。 あなたの唇はもう僕の涙を拭ってはくれない。 いつかのたとえ話をふいに思い出した。 生まれ変わったら一緒になろうな。 あなたは何の恥ずかしげも無く言った。 あり得ないよ。 そう言ったら拗ねたみたいな顔をした。 それから一瞬だけ悲しそうな顔をした。 あなたもこうなる事、知ってたでしょ。 生まれて来る場所を間違えたな。 うん、それには僕も全面的に同意だよ。 式はいよいよクライマックスだ。 一際大きな拍手が二人の門出を祝福した。 あなたと、僕の愛したあなたと、僕を愛したあなたと、 僕の知らない美しい女の新たな道を、指し示す。 僕は目を伏せる。 とうとうこぼれた涙は赤茶色の煉瓦を変色させ、 でもそれもすぐに何も無かったみたいに、元に戻った。 僕も明日からまた、何も無かったみたいに生きていく。 あなたの様に。 あぁ、でも。 もしもあなたの言う通りに、 もしも生まれ変われたなら。 同じ時代を生きられたなら、 同じ空の下で出会えたなら。 その時は結ばれてあげるよ。 m a r r y , m y f i r s t l o v e . もう一人の花嫁 / 摩天楼オペラ ちょっと主人公が女々し過ぎるけど、個人的に初アラソングだなぁと。 110822. back |