派手派手しいシャンデリアの下で契約成立の握手を無事交わして、
外に出たら辺りはもうすっかり暗かった。
朗報を携えて自邸へ戻ると、
出迎えた部下たちが口々に教えて、もしくは冷やかしてくれたので、
ディーノは諸々の処理をすべて右腕に任せて自室へ飛び込んだ。


「恭弥!」


窓際のソファーに、恋人は居た。
イタリアで会うのは本当に久々だ。
思わず駆け寄って飛びつきたくなったが、
雲雀が横になっていた為に、静かに近付く事にした。


「恭弥?」

「ん…、」

「恭弥。来てくれたんだな」

「あぁ、ディーノ…」


案の定雲雀は眠っていたようで、寝起きの掠れた声で、
まるで10年前を思い起こさせる可愛らしさで、ディーノの名を呼んだ。

数日前、雲雀から届いたメールによれば、
彼はここしばらくイタリアで激務に追われていたはずだ。
最近は落ち着いた仕事の多いディーノとは対照的に、
慣れない地での仕事に大層疲れ果てているのだろう、
ディーノが撫でる手のひらの下で、雲雀はぼんやりと目蓋を叩いた。


「ディーノ、遅い…」

「悪ぃ、今日の商談相手が話し好きな奴でさ。なかなか帰してもらえなかった」

「僕を待たせるなんて」

「お前も来るなら事前に言ってくれよ」

「少し時間が空いたからね…会いに行こうと思ったんだ」

「まだ片付いてないのか?」

「もうだいぶ片は付いた。あともう少し掛かるかな…」

「そっか、無理はすんなよ」


雲雀の黒い髪を梳く。
心地良さそうに瞑られた目蓋に唇を落とす。
僅かな時間を、それも疲れ切っているにも関わらず、
自分に会う為に使ってくれた事が嬉しくて、
めいっぱいの愛を込めてキスを送る。
本格的に眠る態勢の雲雀に、ディーノは苦笑気味に諭す。


「…恭弥、こんなとこで寝たら風邪引くぞ」

「丁度良いよ、そろそろあんな地味な作業、うんざりしてたんだ…」

「おいおい、これ以上草壁を困らせてやるな」

「ここで風邪引いたら、あなたが看病してくれそうだし、」

「まぁするだろうな」

「そしたらあなたと1日中一緒に居られる…あなたを、独り占め出来る…」

「…誘ってんのか?」

「疲れてるんだけど…」

「冗談だよ」


余りにもあからさまな顔をされたから笑って答えたら、
雲雀はその細い腕をディーノの首に巻き付けた。


「誘ってるよな?」

「冗談だろ」

「俺はいつだってマジだぜ」

「ベッド、連れてって」

「やっぱり誘ってるよな?」

「いい加減にしなよこの種馬」

「あーはいはい、すいませんね」


年齢不相応に軽い身体を抱き上げると、隣の寝室に連れて行く。
キングサイズのベッドに雲雀を寝かせて、ディーノも端に腰掛ける。
雲雀が寝付くまで傍に居ようと思っていたのだが、
未だ絡まる腕に夢の中から首を絞められた。


「こらこら恭弥」

「なに…」

「絞め殺す気か」

「咬み殺すんだよ…」

「絞めてるだろ今まさに」


ぎゅうぎゅうと絡みつく腕にはそれ程の力が込められてる訳ではなく、
甘えているのだという事くらいすぐ分かる。
可愛い子だと顔を上げたら、キスされた。
そのまま引きずり倒され、雲雀の隣に寝転がる体勢になる。
止まないキスの僅かな合間に、じゃれつく恋人の名を囁いた。


「なぁ、誘ってるだろ?」


啄みながら、溜め息の様に返された。


「しょうがない人だな…」


雲雀は笑みを浮かべる。言葉とは裏腹に、確信犯の笑みだ。
それがまた殺人的に美しいから困る。
薄い背に腕を回して、雲雀の身体に覆い被さる。
最早解ける気配の無い雲雀の2本の細い腕が、官能を煽る様に動いた。
耳元にキスを送ると、必然的に近付いた雲雀の唇からいたずら染みた内緒声がした。


「…1回だけだよ」


あぁもうほんと、




 ど う し よ う も 無 い な 、 俺 ら 。         









110822.



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