天気予報士が毎日の様に、今年1番の寒さを更新していく。
もうちょっと数日後の事くらい見越して発言すれば良いのにと俺ですら思う。
並中生は衣替えをして、揃いのブレザーを着始める。
その下に紺のセーターを着込んで、みんな寒さ対策に全力だ。
そんな俺たちが校則違反の着こなしをしていないかと、
雲雀さんは毎朝校門で目を光らせている。
いつもの学ランを白いシャツの上に引っかけただけで平然と立っているものだから、
見ているこっちが風邪をひいてしまいそうだ。
あの人には季節なんて関係ないのかも知れない。
それともこの街を束ねる最強の風紀委員長には、
冬の寒さすら、遠慮をするのだろうか。


「ははっ、面白ぇ事言うな、ツナ」


こたつに入って、夕方の天気予報を見ながらぼんやり呟いたら、
同じくこたつで温まるディーノさんが笑った。
珍しく俺の家にやって来たと思ったら、
どうやら雲雀さんに見回りが終わるまでどっか行ってろと捨てられたらしい。
段々うちが託児所染みていくのを感じながら、見た目だけは大人のディーノさんに目をやる。


「でも恭弥の奴、ほんとは寒がりなんだぜ」

「そうなんですか? そうは見えないけど」

「寒がりなくせに、厚着は嫌いだし、真冬でも震えながらアイス食うし。変な奴」


変だとかなんだとか、けれど満面の笑顔で言われると、
好きだとか可愛いだとか言ってる風にしか聞こえない。
ともすればランボやイーピンよりずっと子供みたいだ、
好きな子の話をするのに、これでもかと目を輝かせている。


「恭弥体温高いからな、それでよけい寒がりなんだよ」


どうして雲雀さんの体温が高い事を知っているのか、なんて、
もういちいちつっこんだりはしない。
恋人だっていうのだから、やる事はやってるって事だろう。
この託児所にももう大人の階段を登っている子が居るのか、親心が複雑な悲鳴を上げている。
しかしあの雲雀さんが、半径1メートル以内に他人を立ち入らせるという事がまず信じられないのに、
その上、まぁ、ほら、そういう事をしたりされたりを許すだなんて、
目の前でみかんを剥くのに悪戦苦闘しているこの人がそんなすごい人だとは、きっとこの街の人間は誰ひとり信じないだろう。
そしてまるで正反対な2人だ。
太陽みたいなディーノさんと、夜みたいな雲雀さん。
なんだかんだでお似合いだから不思議なのだが。

天気予報が終わるとニュースが始まる。
並盛川に突如あざらしが現れたらしい、なみちゃんだとでもいうのだろうか。
時計は6時を指している。
外はすっかり暗くなってきていた。


「そろそろ雲雀さん、見回り終わる頃じゃないですか?」

「だよなぁ。あー、恭弥まだかなぁ」

「雲雀さん、ディーノさんがここに居るって知ってるんですか?」

「あぁ、ツナん家に居るって言っといたから、たぶん」

「ならお迎え待ちですね」


これじゃほんとに託児所だ。
預かってるのはマフィアのボスだけど、
お迎えに来るのは不良の中学生だけど。

カーテンを閉めようと窓際に立つ。
ふと目をやった外の景色は、慣れ親しんだ街のものとは思えないくらい綺麗だった。
太陽の橙が、夜の紫に飲まれていく。
混じり合う2つの色は、補色同士であるはずなのに、
見る者の呼吸を奪う程に美しい。


「ん?どうした、ツナ?」

「あぁ、いえ、なんでも。…あ、」


家の前の通り、遠くに見覚えのある影が見えた。
学ランを靡かせる姿は、やっぱりこの季節には寒そうだ。


「お迎え、来ましたよ」


思わずディーノ君と言いそうになる。俺はいつから保父になったのか。


「まじで!?」


慌てて立ち上がって、こちらが注意するより先に、
ディーノさんはこたつ布団に足を取られて盛大に転んだ。
しかしそんなの無かったみたいに体勢を立て直し、
窓から身を乗り出して雲雀さんの姿を確認すると、
行ってくる、と嬉しさを隠そうともせず俺に言った。
そしてこれまた慌てて階下へ降りていった。というか、落ちていった。


「恭弥!」


雲雀さんがうちの前に到着したのとほぼ同時に、
ディーノさんが玄関から飛び出した。
そのまま抱きつかれた雲雀さんは、迷惑そうに金髪を引っ張っている。
どう見ても保護者と園児には見えないはずなのに、
先入観とはすごいもので、もう俺の目には雲雀ママとディーノ君にしか見えない。


「うざい。離れろ。帰るよ」

「あ、うん。ツナ! ありがとな、お邪魔しました!!」

「いえ、気を付けて」


2階の窓から手を振ると、ディーノさんは大袈裟な程振り返してきた。
雲雀さんは少しだけこっちを見た後、
ディーノさんを引きずって行ってしまった。
なんだか微笑ましい様な良くわからない気分だ。
少し離れたところでディーノさんが上着を雲雀さんに掛けてあげているのが見えた。
これから、雲雀ママとディーノ君から、恋人同士の2人に戻っていくのだろうか。

見上げたら頭上はもう随分夜に覆われて、所々で星が瞬き始めている。
街はすっかり闇色に変わってきていたけれど、
遠くの空ではまだ太陽が強く煌めいていた。
まるで夜の闇さえ包み込もうとしているみたいだ。
とりあえず窓とカーテンを閉める。
しばらく窓を開け放していたせいで、部屋の中はひんやりとしていた。
こたつに潜り込んで、冷えてしまった指先を擦り合わせる。
部屋が元通りの温度を取り戻す頃、
ふと、もし太陽と夜が恋に墜ちてしまったら、
世界の終わりだなぁと思った。




 太 陽 と 夜 が 恋 を し た         









111221.



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