長時間のフライトと、連日の睡眠不足と、
教え子との手加減無しの修行と、ノートパソコンの細かい文字の羅列と、
原因なんて腐る程思い当たるが結局どうしたんだって、眠い。
それなのに片付けなればいけない仕事は山積みで、
駄々をこねるみたいに戦えとねだる子供を隣の寝室に寝かしつけて、
ひとりリビングルームでパソコンに向き合っていた。数分前までは。

完全にやる気が底を付いた。
身体中が痛いし目蓋は重いし、
もう本当に眠くて仕様が無い。
ソファで伸びていても、こんなにも疲弊しきっているのだから、
誰も文句は言えないだろうと、妙な自信さえ生まれてくる。
寝室に移動しようとも思ったのだが、
もうソファから立ち上がるだけの気力が無かった。
折角隣の部屋に居る恋人の体温に触れられないのは残念でならないが、
もう思考すら停止寸前なのだ。
橙の照明のせいで目を閉じても明るい。
しかしスイッチを切る余裕は無い。
照明の当たらない方に首を回して、いよいよ意識の糸が切れたその時。
なにか重いものがのし掛かってきた。


「…恭弥?」


いっそ金縛りだった方が自然だとさえ思う。
睡魔に縫いつけられた目蓋を開いて腹の上を見たら、
隣の部屋のベッドに居るはずの恋人が真顔で乗っかっていた。


「恭弥…なにしてんだ…?」


疲労故の幻覚だろうかと疑うが、こちらをじっと見つめる瞳が首を傾げて依然なにも答えないから、
あぁこいつは本物の雲雀恭弥だ、と不思議と確信した。


「あなた、風邪ひくよ」


言葉を見つけたらしい恭弥がつんと尖らせた唇で言った。
それで起こしてくれてたというわけか。のし掛かって。
しかしわざわざ起こしてくれたのに申し訳無いのだが、
生憎もうこのソファから立ち上がれそうもないのだ。
どうすればこの子の機嫌を損ねずにそれを伝えられるか、
停止していた脳を回してなんとか考える。


「あのな、恭弥…」

「なに」

「えーと、ほら、情けねぇんだけどもう俺、眠くってさ、」


結局名案など浮かばず、そのままの言葉をごにょごにょと濁しながら告げる。


「だったら寝なよ」

「うん、だけどもう動く元気も無いっつーか」

「じゃあここで寝れば」

「だから、それだと風邪ひくだろ?」

「もう、ひかないよ」


恭弥が首に腕を回してきた。
頬に髪が当たってくすぐったく思っていたら、キスされた。


「僕が暖めてあげるから」


なんの疑いも無い目で言い切って、恭弥が身を擦り寄せてきた。
子供独特の高い体温が心地良く肌に触れる。
まるで本能的な、動物の様な思考回路に、
思わず頬が緩むのを押さえきれない。
泣く子も黙る不良中学生が、こんなにも可愛らしく優しい子だという事を知っているのが、
他ならぬ自分だけだという事に優越感を覚えずにはいられない。
今晩の暖かい毛布が風邪など召さない様に抱き締める。
愛しい体温をなにより強く感じながら、今度こそ目蓋を綴じた。




 e m b r a c e   a n d   b e   e m b r a c e d   ,
  e a c h   o t h e r s   t e m p e r a t u r e .         









ひばり、目を覚ます→隣の部屋の電気が点いてる→あっディーノがうたた寝してる→
風邪ひいちゃうどうしよう→そうだ暖めよう→がばぁ。









120106.



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