右折、右折、左折、直進、直進、右折、直進、左折。


「…迷った」


薄々感付いてはいたけど改めてそう言われると腹が立って、
脇腹に肘を打ち込んだらあなたは呻いた。



今日の朝方、登校したばかりのところを拉致された。
犯人は良く知った外国人で、やたら勘に障る我が物顔で応接室にやって来ると、
ソファで一息吐いていた僕を抱き抱えて堂々と誘拐していった。
曰く、「こんな天気の良い日は恭弥と散歩しないと勿体無ぇ」。
僕から言わせてもらえば、こんな天気の良い日は誰にも、
例えば胡散臭いイタリア人だとかに邪魔されずに、屋上でのんびり昼寝しないと勿体無い。
抗議の言葉は彼の耳には届かず、
擦れ違う生徒達の好奇の眼差しを物ともせずあなたは僕を並盛の外へと攫っていった。
それがすべての発端だ。
第一、部下を連れていないディーノが駄目駄目であるという事をすっかり失念していた。
僕らは見事に道に迷った。
並盛の外の事なんて僕はちっとも知らないし、
こんな時に限ってあなたは携帯を部下に預けたままだとか言ったから気付いたら1発殴っていた。
僕らが帰り道が分からなくてももちろん太陽は時間通りに沈み、
すっかり暗くなってもう帰り道どころかまともな道も分からない。
今夜は野宿だろうかと思ったその時、目の前に煌びやかな建物が現れた。


「…これって」

「…恭弥、野宿とここ、どっちが良い?」


あなたは僕に殴られる事を危惧して、引きつった顔で恐る恐る、聞いてきた。
ここまで比べたくないどっこいどっこいも珍しい。
1日中歩き回った身体を綺麗に出来る事と屈辱とを天秤に掛けて、
結局、前者を取ったわけだけれど。



「妙な事したら、殺す」

「分かってるよ」


すっかり綺麗になった身体であなたに釘を刺した。
だって薄暗い照明の中で変な気を起こされては適わない。
あなたは苦笑しながらシャワー室から出てきた。


「こんな事になっちまったのも俺の責任だ。悪かったな、恭弥」

「……」


答えない僕にまた困った様に笑うと、あなたはソファに腰掛ける。


「俺はこっちで寝るから、お前はベッドで寝な」

「…ふん」


あなたの滞在するホテルと張り合えるくらい大きなベッドに寝転がる、
でもあなたのところのとは比べようもないくらい硬かった。
ここで顔も知らない誰かがねちっこく抱き合っていたのかと思うと居たたまれない。
なんとなく直接肌が触れるのが躊躇われるけどどうしようも無く、
居心地悪く寝返りを打っていたらあなたが照明を落とした。


「じゃあ、おやすみ、恭弥」

「…おやすみ」


間接照明まで官能的な色をしている、
こんな施設があるから風紀が乱れるんだ、今晩の宿とはいえ許し難い。
帰ったら並盛中のラブホテルを潰しに行こうと考えながら目蓋を閉じたら、
くぐもった軋みが上から聞こえた。


「……?」


規則的に、でもそれはたまに乱れてより大きく音を立てる。
こんな夜中に何を暴れているのだと思って、はたと気付いた。
ほんとに、こんな施設、あり得ない。
僕の誇りとする風紀をなんだと思っているんだ、
今すぐにでも上の階のふたりを咬み殺してやりたい。
気にせず眠ろうと目を瞑れば瞑るだけ聴覚は断続的な音を拾う、
上階のふたりの行為が勝手に脳裏に浮かぶ。
映像を掻き消して、目を開いて、鏡張りの天井を睨んだら自分に睨み返された。
でも睨まずにはいられない、身体が変な熱を持ち始めてしまったのだから。
どん、と音がする度に、身体の奥の方をディーノに突かれる衝撃を思い出してしまう。
じんじんと痺れる身体を持て余し、まるで縋るみたいにソファの方を見る。
あなたは気付いて居ない、大人しく寝ている。
僕を舐めたり撫でたり、最終的には挿れたりするのが大好きなくせに、
良く分からない負い目を感じているのか知らないけれど、
こんないやらしい場所に連れ込んでおいて、
何を大人しく寝ているのだと逆ギレしそうになる。


「ディーノ」

「……」


返事が無い。ほんとに寝てる。
仕方無くベッドから降りてソファの前にしゃがみ込む、
疲れてるとかそんな言い訳僕は知らない。それどころじゃない。

「ディーノ、」

「ん、…きょうや?」


肩を揺すったら眠たそうに目蓋を開けた。
長い金色の睫毛の下から甘い色の目が現れて、堪らなくなって首に抱きつく。
身体に渦巻く熱は上昇するばかりだ。


「きょうや? どした? 怖い夢でも見たのか?」


そんな子供らしい理由じゃない、
でも自分でなんとか出来る程大人じゃない。
あなたは僕の身体を抱き締め返す、
あやす様に背を優しく叩かれて悔しいばかりだ。


「ディーノ、もうやだ、信じらんない」

「ん? どうした?」

「だってこんな、…セックスする為みたいな場所、」


ピンク掛かった照明とふたりでひとつの広いベッド、怪しげな自動販売機。
上から聞こえてくる音にディーノも気付いた様だった。


「…ごめんな、恭弥。やな気分にさせて」

「なんであなたが謝るの」

「だって俺が道に迷ったから」

「だったら、なんとかして、」


ディーノをベッドに引っぱっていって、その勢いで背中から飛び込む。
追いかける様に僕の上に倒れ込んだディーノに一瞬潰されかけたけどそんな事気にしていられない。


「ディーノ、」


身体中が熱い。なのにもっと熱くして欲しくて仕方無い。
からからに乾いた喉であなたの名前を呼んだら、
あなたの顔から年上面やら教師面やらが消えて、ただの男の顔になった。
頬を押し付けるみたいに撫でられて心臓がどんどんと鳴った。
キスして、堪えきれずにそう言おうとしたら、それより先に唇を奪われた。


「…恭弥、約束、破るぞ」


この期に及んでなにを言っているんだ、ほんとにこの人は義理堅い。
肯定の意味で舌を差し出したら、それは一瞬で絡め取られた。




(もしかしたら僕があられも無く喘ぐのを、上のふたりも聞いていたのかも知れない。)









 D i v e   t o   s u g g e s t i v e         









名詞形の suggestiveness はちょっと意味合いが変わるみたいだったので、
文法的には間違ってます、英語のテストなら臨時英語教師にばつにされます←










120127.



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