「…っくしゅ、」


恋人としても教師としてもあるまじき事なのだが、
正直心配するよりなにより、驚いていた。
だってあの雲雀恭弥がくしゃみをした。
可愛い可愛い恋人は、とにかくあらゆるところで人類を超越しているイメージがあったから、
まさか肩を竦めて目を閉じて、手を口に当てて可愛くくしゃみをするとは思わなかった。
うっかり腰がじんとしてしまった。


「…なに見てるの」


鼻をすんと鳴らして、涙目をむっと歪めながら言われても困る、
なにが困るって俺の理性が困る。困ってる。
もうここが健全な中学校の応接室であるとか、
相手が俺の唯一の弟子だとか7つも年下の中学生だとか恐ろしく凶暴だとか風紀委員長だとか、
そんなの一切どうでも良くなってくる。
不機嫌そうに曲げた唇に狙いを定めてじりじりと距離を縮めていく、
すると恭弥はそんなこちらには目もくれず、
その愛らしい口元を真っ白いマスクで無慈悲に覆ってしまった。


「…なんで!?」

「…なにが??」


自分でも想像以上に大きい声を出していた。
恭弥は不思議そうな不審そうな目をしている。


「なんで、マスクしちゃうんだよ、」

「花粉。今日酷いんだ」


思わずどもりそうになる俺とは対照的に、恭弥は短くそう言うと、
腹立たしげに盛大に眉を顰めて溜息を吐いた。
自分のアジトである応接室の中にまで入り込んでくる花粉に大層ご立腹の様だ、
花粉め咬み殺す、とまで言っている。

途端に、そういえばこの人は雲雀恭弥だったと思い出す。
生理現象などとは遠くかけ離れたところに居る、
並盛の恐怖の象徴たる人物とはこの人の事だ。
さっきの可愛い子はどこへ行ったのだろう、
目の前の子供は殺気すら漂わせてもう可愛いどころじゃない。

思わず苦笑いしていたらまた、くしゅんと肩を震わせた。
いや、うん、やっぱ可愛いわ。









120322-120427.



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