深夜のメールに始まり、早朝の真っ赤な外車の迎え、おめでとうとキス、
気取った昼食、愛の言葉、屋上での殺し合い、
愛の言葉、キス、豪勢な夕食(ハンバーグと寿司が同時に出てきた時はちょっと引いた)、愛の言葉、
2人分には見えないケーキ、その僕の分にこれでもかと盛りつけられたフルーツ、
綺麗に書かれた誕生日おめでとうのチョコレート、そして目の前の笑顔がかしこまって言う誕生日おめでとう、キス、
綻んだ笑顔、だらしない笑顔、可愛らしい笑顔。

誕生日効果でいつもよりほんの僅かに特別扱いだった1日がそろそろ終わる。
今日が終わる瞬間まで一緒に居ると駄々をこねるディーノに絆されて、
もうすっかり勝手のわかるホテルに泊まる事にした。
べたべたくっつく大の男が邪魔で風呂も歯磨きもおぼつかなかったけれど、
いつの間にかそれを鬱陶しいどころか、心地良いと感じている僕はそろそろ末期かも知れない。
当然のように同じベッドに寝そべる。
落ち着かないぐらいぎゅうと抱きしめられて、
今から休むというのに心臓はがんがん鳴って、眠気もどこかに飛んでいった。
ディーノは相も変わらず子どもみたいな満面さで僕に笑いかける。


「じゃあ、おやすみ、恭弥」

「…うん、」


愛してる、と決まり事みたいに言って目蓋にキスをすると、僕を抱き枕みたいにしてディーノは目を閉じた。
おや、と思う。
誕生日だと騒いでいたのは主にこの人だ。
朝からずぅっと砂糖みたいな愛を囁いて、
今日だけで何度キスされたかもわからない。
僕は今日という日をそれ程特別視してるわけじゃない。
…いや、でも、そうか。普通に寝るのか。


「………」


なんだか僕ばっかりあらぬ事を考えてるみたいで嫌になった。
もう僕も寝てしまおう、と思った時、ディーノがぱちりと目を開けた。


「恭弥、どした?」

「…なにが」

「なんか、そわそわしてるから」


無意識に反らしてしまった視線はよけいにディーノの疑いを煽ったみたいだ。
落ち着かせる目的なんだろうけどこのタイミングでキスなんてしないで欲しい。
もうすっかりその気になってる自分に絶望した。


「…ディーノ、」

「ん?」

「……いや、なんでも無い…」


今でさえ火が出そうな程恥ずかしいのにそれ以上言えるはずもない。
衣擦れにすらかき消されそうな声をディーノはしっかり拾って、
そしてぱちりと目を丸くして、目を細めて僕を覗き込んだ。


「なんだよ。…してぇの?」

「……そんな事、言ってないよ」


言ってない。思ったけど。
ふーん、とディーノはわざとらしく言った。
もうまともにその顔を直視も出来ない。
色っぽいから低い声出さないでとも言えない。


「…俺、恭弥はそういうのあんまり好きじゃねぇのかと思ってた」

「別に好きじゃないよ」

「ん、じゃあ健全に寝るか?」

「……」


ふふ、とディーノは笑う。
ちらりと見たその表情は、ついさっきまでの無邪気な子どもみたいなのじゃなくて、
やらしくてずるくて意地悪い大人の顔だった。
なんでこうも一瞬で切り替わるんだろうか、
なにをやらせても不器用なのに、こういう時だけ器用なものだ。
急に体温の上がった背中を撫でられる。
その手つきまでやらしい。


「好きなら好きって言ってくれたら、ちゃんと可愛がってやんのに」

「だから、好きなわけじゃなくって、」

「言ってごらん、恭弥」


上手にねだってみろよ、なんて、
安いアダルトビデオみたいなせりふを、
とてつもなくいやらしくディーノは言い放つ。


「まだ誕生日だしな。お前のお望み通りにしてやるよ」

「……、」

「どうして欲しい?」


ぎらぎらした蜂蜜色の目に至近距離で見つめられて、
平常心が煙を上げて気化していく。


「……ぁ、」

「ん?」


心臓の音がうるさ過ぎて自分の声すら聞こえない。
もう駄目かも知れない。
僕は自分が思っている以上にこの人が好きらしい。


「…あなたが、好きなようにして」


言い終わる前に、今日何十回目かのキスを、そして今日初めての深いキスをされた。
息が止まりそうになる。勝手に体温が上がって思考回路にもやがかかる。
全部全部この人のせいだ。
だって笑いかけられるだけで大丈夫かってくらい心臓が跳ねるのに、
抱かれたりなんかして心臓が止まらないのが逆に不思議だ。


「じゃあ、お前が喜ぶように抱いてやるよ」


身体を起こして僕を上から見下ろすと、
ディーノは僕にしか見せないだろう壮絶に艶めかしい笑顔を向けてくる。
声も出ないくらいその表情に飲まれてしまって、
早く早くと恥じらいもせずに願っている事に死にたくなった。
僕はもっと思慮深い子だったはずなのになぁ、
そんなうわごとも意識の外に放られて、
もうこの人の事しか考えられなくなっている。
ほら、やっぱり末期だ。









120505.



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