伝承

──狂女は、元は武家の娘だったと言います。なんでもお家が駄目になって、遊郭に売られてしまったとか。もう、三年ももたなかったのだって。すっかり頭がおかしくなってしまって、追い出されて、お付きの犬の太郎とこの村に来たのだそうですよ。それは美しくて、心が優しかったから、皆とても狂女を可愛がって、悪い男達からは、太郎が守ってくれていたと言います。村人達は狂女の歌を聞いて畑仕事をして狂女が結んだ草の根を頼りにして、家路に着いたのですって。でも、太郎が老いて死んでからは酷かった。悪い男達が狂女を襲って、狂女は子を身篭った。けれども守るものはだれもいなかったので、狂女は段々と衰弱していって、子を産み落とした日、ぱたりと動かなくなってしまったのだそうです。死産でした。子は近くの川に捨てられて、下流の村で拾われた時には、もう、魚に喰われて、目がぽっかり開いていたのだって。


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