■人とかみさま(ニル+ティエ)
ニールがティエリアを庇って右目を負傷してから一期終了までの、ニールの過去を知ったティエリアの話。カップリング要素はありません。
表紙:磐城涼さま
Sample(冒頭部分)
たゆたい、たゆたう。躊躇い、揺れて。
ラグランジュ1で国連軍とのランデブーが予想されている。ソレスタルビーイングにとっては不利でしかない戦闘を見据えて補給に向かうプトレマイオスの中、ティエリアは自室で端末を操作していた。
情報は一種の秩序をもってヴェーダ内を漂っている。一見なんの繋がりもないように見える情報同士を結び付け、容易く見つけ出す。以前はもっと容易かった。ヴェーダとの直接リンクによって、意識とリンクして情報を収集できた。意識に従って情報が集まってくる。手足というよりも、意識と一体化していて意思に従っていた。
ヴェーダに拒まれて、直接リンクが出来なくなって。それでもヴェーダに馴染んでいて特性を知り尽くしているから、手足のように使うことが出来る。ティエリアが意図した情報を検索し、見つけだす。多少時間は掛かっても見つけることは出来る。
情報の見方が変わって、意識が変わって、必要に迫られたもの以外に、興味が向いた。
ロックオン・ストラトス。
ぼんやりと、気になる名前を検索する。検索先はヴェーダではない。ヴェーダからティエリアの端末にコピーした、ヴェーダのごくごく一部でしかないデータベースだ。脳裏から消えない彼の名前。美しい名前を探す。
彼は、綺麗な人だ。
初めて会った時にはただの人間だと思った。マイスターとしての素質は、一目見ただけではわからない。ゆるくウェーブした栗色の髪は肩にかかる程度の長さで、なんとなく、戦いを好む人間にも、戦いに向いている人間にも思えなかった。感情表現も豊富で、表情がくるくる変わる人間だ。時には感情を殺して動く必要があるガンダムマイスターにはふさわしくない人間に思えた。
それでも射撃の腕は確かで、技術の面で、デュナメスに乗るためにあれ程ふさわしい人間はいない。コードネームの通り、地上から成層圏の向こう側の標的を打ち抜く超高高度狙撃も難なくこなす。
そして、酷く、無駄に思えるほどにあたたかい人だった。
クルーに掛ける、ティエリアに掛ける言葉の一つ一つが輝いて、一つ一つ刻み込まれていく。
綺麗なきれいな人。人間であるとは思えないような人だ。
その技術でも能力でもなく、無意識に人間を調べようと端末を操作する。流れる動作で打ち込まれた指示により、レベル7の機密事項であるガンダムマイスターの情報は、かつてのティエリアの手によって容易く暴かれていた。そして、その時には全く興味のなかったデータを、何の気まぐれか、ヴェーダから独立したティエリアの端末にコピーしていた。いつか閲覧しようとか、そんなつもりがあったわけでもない。不意の思いつき。不意に思いつくこと自体がティエリアには珍しくて、その思いつきを大事にした。
アイルランド出身。
三月三日生まれ。
家族構成は両親、弟、妹。両親と妹はテロにより死亡。
テロにより死亡。
激昂した彼に胸ぐらを掴まれたときのことを思い出した。
←