偽り王子にGrazie! | ナノ


  2-4


「それにしてもフェリシアーノくん、仕事大変そうだな」


 ユキは、フェリシアーノが出してくれた紅茶をゆっくり飲みながら呟く。

 出されたアプリコットティー。俺、アプリコットティー好きなんだよな、とユキは飲みながら呑気なことを考える。


「ヴェー……大変だよ………」


 そう言いながら、顔を綻ばせる彼につられて、ユキも同じように笑った。

 ふと彼の頭上をみてユキは気がついた。顔は笑っているものの、彼の髪のくるんとした部分がだらんとたれている。そんなに仕事がつらいのだろうか。


「いつもは兄ちゃんと分けてるんだけどね…今回は兄ちゃんと俺で別々の仕事が入っちゃってさ」

「それは大変だな……」


 ユキがそう言うと、フェリシアーノはうんうん、と頷いたあと、すがるようにユキに泣きついた。


「俺だけじゃ無理だよー! ユキちゃん手伝ってよー!」

「がんばれー、俺は手伝わないぞー」


 棒読みでそういうと、フェリシアーノはあからさまにがっかりしながら返事をした。
 いや、だって俺そういう書類仕事とか好きじゃないし。というか関係ない人間が手伝うのはまずいと思う。


「うん、頑張る。……あ、そう言えばね! この間、世界で一番美味しいかも、って言いたくなるくらい美味しいパスタ屋さん見つけたんだけど」

「それを先に言おうよ」


 思わず前のめりになってしまう。

 ここ、イタリアのパスタは何でも美味しい。パスタ好きの聖地。そして、俺の目の前に居るこのフェリシアーノくんは無類のパスタ好きだ。

 そんな彼にここまで美味しいと言わせるパスタがどんなものか、気になるものだ。

 ユキとフェリシアーノは、また二人で意気揚々と話しだす。何十分くらい話しただろうか、玄関の方からフェリシアーノを呼ぶ声がした。


「ヴェ、兄ちゃん来たみたいだ」

「おお、噂のおにーさんか」


 フェリシアーノは、ユキちゃんはここでちょっと待っててね、と言って玄関の方へと走っていく。

 その言葉に、ユキはぬるくなってきた紅茶を飲みながら頷いた。飲み干して空になったカップを置いて、菓子をとろうと手をのばす。

「あ、」

「え?」


 部屋の入り口の方で、何か物が落ちたような音がした。思わず音につられてそちらを見ると、とても見覚えのある青年と目があった。

 先程まで話していた彼によく似た茶髪に緑色の瞳。紙の色は彼より幾分か暗色だが、よく見ると顔立ちや背丈などが似ている。

 フェリシアーノが青年の横に立って口を開いた。


「ヴェ、ユキちゃん。紹介するね、俺の兄ちゃんの……」

「ヴァルガスくん!?」

「笠原ユキ!?」


 ―――フェリシアーノくんのおにーさんは、あの日俺がぶつかった青年、ロヴィーノ・ヴァルガスくんだった。


「え、」

「ええ!?」

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