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「それにしてもフェリシアーノくん、仕事大変そうだな」
ユキは、フェリシアーノが出してくれた紅茶をゆっくり飲みながら呟く。
出されたアプリコットティー。俺、アプリコットティー好きなんだよな、とユキは飲みながら呑気なことを考える。
「ヴェー……大変だよ………」
そう言いながら、顔を綻ばせる彼につられて、ユキも同じように笑った。
ふと彼の頭上をみてユキは気がついた。顔は笑っているものの、彼の髪のくるんとした部分がだらんとたれている。そんなに仕事がつらいのだろうか。
「いつもは兄ちゃんと分けてるんだけどね…今回は兄ちゃんと俺で別々の仕事が入っちゃってさ」
「それは大変だな……」
ユキがそう言うと、フェリシアーノはうんうん、と頷いたあと、すがるようにユキに泣きついた。
「俺だけじゃ無理だよー! ユキちゃん手伝ってよー!」
「がんばれー、俺は手伝わないぞー」
棒読みでそういうと、フェリシアーノはあからさまにがっかりしながら返事をした。
いや、だって俺そういう書類仕事とか好きじゃないし。というか関係ない人間が手伝うのはまずいと思う。
「うん、頑張る。……あ、そう言えばね! この間、世界で一番美味しいかも、って言いたくなるくらい美味しいパスタ屋さん見つけたんだけど」
「それを先に言おうよ」
思わず前のめりになってしまう。
ここ、イタリアのパスタは何でも美味しい。パスタ好きの聖地。そして、俺の目の前に居るこのフェリシアーノくんは無類のパスタ好きだ。
そんな彼にここまで美味しいと言わせるパスタがどんなものか、気になるものだ。
ユキとフェリシアーノは、また二人で意気揚々と話しだす。何十分くらい話しただろうか、玄関の方からフェリシアーノを呼ぶ声がした。
「ヴェ、兄ちゃん来たみたいだ」
「おお、噂のおにーさんか」
フェリシアーノは、ユキちゃんはここでちょっと待っててね、と言って玄関の方へと走っていく。
その言葉に、ユキはぬるくなってきた紅茶を飲みながら頷いた。飲み干して空になったカップを置いて、菓子をとろうと手をのばす。
「あ、」
「え?」
部屋の入り口の方で、何か物が落ちたような音がした。思わず音につられてそちらを見ると、とても見覚えのある青年と目があった。
先程まで話していた彼によく似た茶髪に緑色の瞳。紙の色は彼より幾分か暗色だが、よく見ると顔立ちや背丈などが似ている。
フェリシアーノが青年の横に立って口を開いた。
「ヴェ、ユキちゃん。紹介するね、俺の兄ちゃんの……」
「ヴァルガスくん!?」
「笠原ユキ!?」
―――フェリシアーノくんのおにーさんは、あの日俺がぶつかった青年、ロヴィーノ・ヴァルガスくんだった。
「え、」
「ええ!?」
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