気付いてしまった恋心


(このラッピング、キレイだな…あ、これかわいい)


 笠原ユキは、ショップの棚に並んでいるかわいらしい包装を見ながら、そんなことを考える。


(どれならヴァルガスくんは喜ぶんだ……)


「って、俺は何をやってるんだ!?」


 そもそもの発端は、最近よく一緒に出かける事が多くなった、ヘーデルヴァーリ嬢との会話だった。


『もうすぐ二月十四日だけど、ユキちゃんはロヴィーノくんに何か用意した?』

『いや?何も用意してないけど。そもそも何で俺がヴァルガスくんに?』

『え……』

『え?』


 その後の彼女は恐ろしかった。

 ーーどこが、って。……うん、思い出したくないくらい恐ろしかった。

 まあ、俺が買い物に来てる理由が彼女なのだとわかってくれればいい。


 ユキは買い物を終えて店から出る。

 カバンとレジ袋を手に持って、家に帰ろうとした。


(何で俺がこんな女の子女の子した…)


 レジ袋の中身を見ながらぶらぶらと歩いていると。


「ユキ?」

「ヴァ、ヴァルガスくん!?」


 ヘーデルヴァーリ嬢のせいで少し気になっていたロヴィーノ・ヴァルガスくんが、後ろから話しかけてきた。


「やっぱユキか。久しぶりだな。正月以来か?」


 手を左右に振りながら、こちらに近づいてくる。


「そ、そうだな。あれから一ヶ月くらい、か?」


 俺はどもりながら返事をする。

 ……不自然か?


「一ヶ月と六日だぞ」


 不自然ではないみたいだ。よかった。


「よく覚えてるな」

「忘れるわけねーぞ。……好きな奴と離れ離れになったんだしな」

「何か言ったか?」

「……別に」


 ヴァルガスくんが何かを呟いたようだが、俺の耳に届く事はなかった。


「?……ところでいつもちぎちぎ言ってたヴァルガスくんは、何をしてたんだ?」

「あー……紅茶とか買いにきてただけだぞこのヤロー」

「へえ。あ、言っとくけど俺、ヤローじゃない」

「それくらいわかってる。ユキは何してんだよ」


 何を。

 ヴァルガスくんのための買い出し。

 ……なんて、素直に言うわけには。


「あ、いや、い、言えない」

「何でだよ」

「何でもだ!」

「言えよ」

「嫌だ」

「言え」


 二人の言い合いが続くも、ロヴィーノの気迫に圧されたユキ。


「………の、」

「?」

「お前のために作るチョコのラッピングを買いにきてただけだよバァカ!!」

「はっ!?」

「今の俺は!お前がどんなのなら喜ぶかとか、俺のチョコはまずいとか言われないかとか、いつもなら考えもしないことを考えるくらい女々しくなってんだよ!!なんなんだよ!」


 おかしいよな!!と叫び散らすと、ヴァルガスくんはぽかーんと放けていて。


「………」


(ああ、くっそ。何でこんな……調子狂う)


「なんか言え、よ、!?」


 何も言わないヴァルガスくんにしびれをきらした俺は、声をかけた。

 けれど、人がたくさんいるのに、ヴァルガスくんは俺に、キスをした。

 わざと聞こえるように、リップ音を立てて。


「お、おま、なに、して、」


 俺が見上げるとーー前までは俺の方が高かったのにーー、ヴァルガスくんはイタズラが成功した子供のように、ニヤリと笑って。


「ユキ、かわいくなったな」


 なんて、そんなことを言うから。


「な、なななななななな、なにいってんだこの野郎ッ!!」


 俺はおそらく真っ赤になっているであろう熱い顔を見られたくないがために、その場から逃げ出した。


 道を走りながらも、俺はヴァルガスくんのことを考える。


(ああ、ホント、なんなんだ。ヴァルガスくんの奴。なんで、なんであんなに)


「かっこよくなってんだよ…」


 俺の後ろでちぎちぎ言いながら弟くんと泣きわめいていたあのヘタレなロヴィーノ・ヴァルガスくんは、一体どこへ?


 全く、何がどうなってるんだ!


気付いてしまった恋心

(女らしさなんて、あの日捨てたハズなのに)

(あーあ、なんだかな)




 気付いてしまったユキと、気付いてほしかったロヴィーノのお話。

西「お二人さん、相変わらずやなぁ」

北伊「兄ちゃんがんばれ!」

洪「ユキちゃんも頑張って!」


 

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