メイビー・レイディー | ナノ
不透明な瞼の向こうで

ある晴れた日曜日。今日は竜と映画を見に行く約束をしていたのだけど、連絡しても返事がこない。あの竜が、だ。まめな彼から返事がこないなんてのはあり得ない。なにかあったのだろうか。迎えにいこう。
ピンポン。
呼び鈴を鳴らして少し待てば犀川さんが出迎えてくれた。

「あ、朝早くごめんなさい。竜は・・・」
「竜一様ならまだお休みになられておりますが」
「今日は映画に行く約束を、してたんですけど」

寝てる。だから返事がこなかったのだと納得がいった。なんてことだ。涙がでそうになったが犀川さんがいるのでぐっと堪えた。

「起こしてまいりますのでどうぞあがってお待ちください」
「私が!起こしてきていいですか!?」

竜の部屋を教えてもらい、ノックする。返事はない。ノックしたから開けていいよねとドアをそっと開けた。

「・・・」

なんて気持ちよさそうに寝ているのだろう。虎太郎にひっつかれて少し寝苦しそうだけど微笑ましいから良しとしよう。

「竜」

二、三回揺さぶれば瞼を押し上げた。

「ん・・・」
「おはよう竜」
「操・・・え?なんで操がここ、に、」

ここまで言いかけて、は!と意識が覚醒する。名前の頬がぷくぷくと膨らんで明らかに不機嫌なのが読み取れた。

「・・・今何時だと思ってるの」
「え!うわっ、ごめん操!」

枕元にあった時計に目をやり時刻を確認すれば顔を青ざめた。今日は操と出かける約束をしており待ち合わせより大幅に遅れていたのだ。、と思い出した竜一。これは非常にまずい状態だった。

「昨日は虎太郎を寝かしつけた後にレポートやってたから・・・」

あわあわしながらも準備を進める。着替えるとのことで部屋をでて犀川さんがいるリビングへと向かった。

「操様。竜一様は」
「今、起きました」
「それならお茶でもいれますか?」
「お願いします」

暫くして身支度を終えた竜一がやってきた。

「お待たせ」
「っ、」

当たり前だけど、私服の姿。・・・相変わらずかっこいい。

「やっぱまだ怒ってる?」

私の表情におそるおそる聞いてくる。違うよ。ただ、顔に力いれてないと表情筋が緩んで間抜けな顔になってしまうから。・・・なんて言えるわけない。

「なんでもない、行こ!」
「うん、じゃあ虎太郎、犀川さん行ってきます。虎太郎ちゃんと犀川さんの言うこと聞くようにな!」
「う」
「行ってらっしゃいませ。竜一様、操様」

二人に見送られて映画館へ向かった。休日なだけあって人が多い。普段滅多に外出なんかしないから、人が多い場所は苦手だった。

「うー・・・人多い・・・怖い」
「何言ってるんだよ、学校も同じじゃない?」
「じゃあチケット買ってくるからここに座って待ってて」
「はーい・・・」

今日は全て竜にお任せしてある。だから映画を決めたのも竜だ。ホラー以外ならと言っておいたけど結局何にしたんだろう。当日のお楽しみだと、わくわくしていいでしょってとても楽しそうに竜が言うものだからついついのってしまって。

「まさか・・・動物ものなんて・・・卑怯だ」
「卑怯?ごめん・・・苦手だった?」
「全然」

あまりの感動に、ソファで泣きじゃくる私。むしろ良かった。もう一回観たいほど。

「ほらハンカチ」
「ありがと・・・」

すん、と鼻をすすって借りたハンカチを目に当てた。パンフレット買って帰ろうかなと思っていると竜が声をあげた。

「あ、もう5時か。」
「え・・・もう帰っちゃうの?」
「え?いや、もう少し大丈夫だと思うけど」

そう言いながらも、なにかを心配するようにもう一度腕時計に視線をやった。なにか、なんて嫌でもすぐに分かってしまう。こんな時ぐらい忘れててよ。私だけを見て、私だけのことを考えてて。そう言える性格だったらよかったのに。心配は私もなんだから笑ってしまう。

「操?」
「皆にお土産買って帰ろうか」
「うん。いいね。」

・・・ああ、やっぱり。竜が笑うだけで十分。

「あ、」
「え?なに?」
「・・・ううん・・・なんでも、ない」

自然に繋がれた手に勘違いしちゃうじゃん、竜の馬鹿。

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