ーお酒の飲み過ぎは危険。弱い人は控えましょう。ー
誰もがよく耳にする言葉だ。普段からあまり飲まない私がなぜ今日に限ってあんなに飲んでしまったのか。恋人にふられたのが原因。その愚痴を聞いてくれた友人に今飲まなくていつ飲むという言葉につい揺らぎ誘われ飲んでしまったこと。それが間違いだった。
酷い頭痛と共に目を覚ますとなんだか肌寒い。肌が栗だっていた。なんで、と思い下を向く、ぎょっと驚いた。
なにも、身に着けていない。あたりを見まわしてみると
床に散乱している衣服にゴミ箱にはティッシュペーパーと明らかに口を閉め使い終わったコンドーム。
え、え、え?なに、この惨状。呆然とすることしかできずにいるとバスルームの方から音がした。扉が開くとでてきたのは昨夜一緒に飲み会した人物のうちの一人。シャワーあがりなのかタオルで頭をわしゃわしゃとかきながらこちらへと歩みを進めてくる。
「起きた?」
「え、えーと」
「なまえも浴びてくる?気持ちいいよ」
「なんでっ」
目の前にいる人物ー、板垣学はいつもの明るい笑顔をにこりと見せた。
「取りあえず服来たら?」
「へ?・・・ぎゃあ!」
言われて思い出した。自分がなにも着ていなかったのを。寒いと感じた原因は自分が素っ裸だったのだという事を。とりあえずシーツを体にまく。
「すげえ声。昨夜とは大違い」
「昨夜、って・・・一体何があったの?」
「あれ?覚えてないんだ。まああんなに酔ってたから覚えてないのも無理はないか」
「だ、だから、なに」
「セックスしたんだよ僕ら。」
「は、・・・?」
「可愛い声、だすんだね」
言っている意味が分からない。いや、分かるけど、なんでそんな明るいの?二日酔いひどくなってきた。話を聞くと私が酔いつぶれたその後どちらかが送り届けるかの話になったらしい。
「鈴木がなまえと家同じ方向みたいで送るって言ってたけどアイツなまえに気があるのわかってたし、そのままお持ち帰りってことになりかねないと思ったからさ」
「アンタはどうなのよ結局鈴木と同じじゃない」
「そ。なまえも鈴木より僕でよかったでしょ?」
そんなわけあるか。勝手に人の体触って処女まで奪いやがって。もうなにがなんだかわかんなくなってじわり、と涙があふれた。好きな人に振られて、二人に愚痴を聞いてもらってようやくまた明日から頑張れそうだと思っていたのにこれだ。
「最悪・・・こんなことならお酒なんか飲むんじゃなかった・・・」
このようなことを、なんて言ったっけ。ああ・・・思い出した。送り狼、というやつだ。自分も悪かったと思う。だが、しかし、だ。いくらそれを含めても
「酔った勢いでする普通!?ありえない!」
「しょうがないだろ、僕だって健全な男子だぞ。あんな可愛くおねだりされたらしますって普通。」
「は、?ねだった・・・?」
「うん」
「だれが?だれに?」
「なまえが、僕に。」
冗談ばっかり言っておちゃらけてる奴のいう事真に受ける必要ないと思いたい、が。下腹部の鈍い痛みと、全裸の私が真実だという事を告げている。うわあ、やばい、違う、そんなこと絶対。
「あり得ない、のに」
「真実なんだよなあこれが。」
キッと学を睨み付ける。
「アンタはもっと焦りなさいよ!なにそのすっきりした顔!」
「だすものだしたんで」
「もう嫌っ!」
こんな奴としたなんて。しかも初めて。死んじゃいたい。
「よかったよ」
「私はちっともよくない」
「ほんとに可愛かった。もし覚えてないのが不満ならもう一回する?」
ほんとこいつは。
「するか!」
「おー怖いっ」
「・・・帰る!」
散らばった衣服をようやく身に纏い、鞄を持ってでていこうとすれば、呼び止められようやく謝罪の言葉が聞けるかと思ったら。
「またしようね」
よくもぬけぬけとこの男は、なにも反省していない。自分が悪いとはこれっぽっちも思っていないらしい。人を傷物にして罪悪感とかないのか。精一杯の抵抗であっかんべをし、荒々しく扉を閉めてやった。どうか夢であってほしいと願わずにはいられなかった。