彼はよく公園のベンチでお酒を飲んでいる。この昼間から、何をするわけでもなく、ただわたしにはどこを見てるか分からない、少し寂し気な瞳で。
「ロベルトさんお酒臭い」
「あはは」
彼はなにかを誤魔化すように相変わらずの笑みを浮かべた。わたしは苛々が募るばかり。言ったところで理解してもらえるはずがない、分かっているけど。
「なまえちゃん学校は?」
「サボり」
「サボっちゃだめでしょ」
「昼間から飲んだくれてるおじさんに言われたくない」
「それもそうだ」
今日はよく笑うな、と思いながらその笑顔をじっと見つめる。
「そんなんでこれからどうするんですか」
「どうしようね」
呑気な。でもそこがわたしにとっては可愛いと思ってしまう。ロベルトさんの事情はなんとなく知っているけれどあの世界に戻ってほしいわけではない。わたしだって18歳だ。結婚できるし働こうと思えば働けれる。ロベルトさん一人ぐらい。
「わたしが養ってあげますよ」
わたしの言葉にきょとんと瞬きを繰り返す。あ、冗談だとか思ってる。
「わたしほんきですよ」
「なまえちゃん学校があるでしょ」
「学校はやめて働きます!それなら」
「なまえちゃん」
「どうして、ですか」
「なまえちゃんの気持ちは嬉しいけど今なにが大事なのかちゃんと考えてほしい。」
「そんなの、」
「それになまえちゃんはまだ子供だ」
どうして。こっち見てくれないの。そんなこと言うの。分かってる。ちゃんと考えて言ったよ。周りも見えてる。それなのに。
「こどもじゃない」
「なまえちゃん」
「もうこどもじゃないです!」
ロベルトさんの身体を引き寄せて唇に触れる。やっぱりお酒の匂いと味がした。離された唇から吐息が漏れた。ロベルトさんの瞳はゆらゆら揺らいでいる。
「名前ちゃ、」
「ロベルトさん、わたしっ」
ロベルトさんは途中でわたしの口を掌で塞いだ。聞いてもくれない。言わせてもくれない。ほんとどこまでもずるいひと。
「学校まで送るよ」
「・・・はい」
きっとわたしのことはそんなふうには見えない。直接言われたわけではないのに、ううん、さきほどの行動がその証拠。ふられた。がつんと頭を重い鈍器かなにかで殴られた衝撃が奔る。
ロベルトさん、わたしね。すこしでもあなたの近くにいきたかった。