小説 | ナノ



壁に跳ね返ったボールが足元に転がってくる。それを拾い上げて転がってきた方へと見据えた。
おお。
源三の機嫌が恐ろしく怖い。いつもピリピリしてるけど今日は今までとは比べものにならないほど怒っている。今は行かない方がいいと言う見上さんの忠告をちゃんと聞いておけばよかった。

「なまえか」
「よ、」

鋭さが増した視線と交わりさらに後悔する。なぜかゾクっと背筋が凍りついた。こわいこわい。早いとこ退散したほうがよさそうだ。

「何の用だ」
「お母さんからおすそわけ」

わたしと源三は昔から仲の良い幼馴染だ。よく手料理をこうして持ってきては源三に勉強教えてもらっていたっけ。

「悪いが用が済んだら帰ってくれ」
「うんそうする」
「・・・やけにあっさりだな」
「だって帰れって言ったじゃん。殺気立ってるし・・・いまの源三には近寄りたくない」

そろりそろりと距離をとる。源三は何かが気に入らなかったのか少し複雑な顔をしていた。滴り落ちる汗をグローブで拭う。わたしはそれを見て慌てて止めた。

「そんなんで拭いたら目に雑菌はいるでしょ?新しいタオル持ってきたからそれ使って!」

源三の顔に洗いたてのタオルを押し付けた。そのまま汗を拭いてやると自分でできる。と怒鳴られ荒々しくタオルを手から奪われた。むう。と頬を膨らませ、不機嫌な顔で源三を睨んだ。

「折角の人の好意を」
「おせっかいなだけだろ」
「ふーんだ、源三なんか大空翼にこてんぱんに負けちゃえ!」
「その名前を呼ぶな!」

禁句だったみたいだけどそんなの知ったこっちゃない。源三はまだぶつぶつ、文句みたいなことを呟きながら練習を再会させた。さて、わたしも帰るとしますかね。ちら、と横目で見るともうわたしのことは見えてない集中力。ほんとは勝ったらちゅーしてあげるって、お約束を考えてきたんだけど。そんなこと言える雰囲気ではないし、源三が嫌いなジョークだなと、口にださずによかったと安堵して、自宅に戻っていった。



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