小説 | ナノ



「木村さん」

なまえちゃんはいつも試合終わりに家に来てくれて俺の世話をしてくれる。仕事で疲れているはずなのにその優しさについつい甘えてしまって。駄目だな自分。

「試合勝ったんですよね。おめでとうございます。」
「サンキュ、まあ勝ったって言ってもギリギリ判定勝ちだけどな」
「それでも勝ちは勝ち。素直に喜ばなくちゃ!」

柔らかな笑顔、俺はこの笑顔が大好きだ。彼女の表情が鋭くなる。思わずどうした?と聞いてしまった。

「木村さん」
「お、おう?」
「隣にどうぞ」

そう言って右手でポンポンと叩いて座ってと視線で合図を送る。隣に腰掛けた。

「なまえちゃん?どうしたの?」

ぎゅうう、と抱きしめる。突然の行動に固まった。回し損ねた手が抱きしめるタイミングを逃し宙ぶらりん状態だ。それにしても彼女から動くなんてどうしたんだろう。首筋に埋めてさらさらとあたる彼女の髪がくすぐったい。胸が、柔らかい、いい匂い。これはいいのか。ベッドの上だしそうゆう意味でいいのか。いやもし間違ってたら。けど弾力のある豊満な胸が理性を崩させようとする。欲望には勝てない。さっきから心臓の音が煩くて柄にもなく緊張している。彼女の顔が間近に迫ってきて、そっと両手で頬を包み込み柔らかな唇が自分のそれに触れた。

「試合前は大変だから邪魔しちゃいけないって木村さんを我慢してるんです」

もう一度唇にキス。

「さみしかったんですよ」

上目遣いで拗ねた子供のように言う。ああもう、ほんとこの人は、心臓に悪い。今度は木村からキス。

「ん、」
「・・・俺だってなまえちゃんが、足りない」
「じゃあいっぱい補充してください。私も木村さんをいっぱい感じたいです」
「なまえちゃんはほんとずるいなあ」
「え?」

今日は親がいなくてよかったと思った。彼女の為に一人暮らしするのも悪くないかなと思いながら彼女の頭を優しく撫でて頬に軽く唇を押し当てそのままゆっくりとベッドへと沈んだ。職業がプロボクサーである限り夢は散るばかりなんだろうなという考えは頭の片隅へ追いやって。



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