「ねえクロムー・・・、っと」
入るなり慌てて口を閉じた。クロムが珍しく寝ていたのだ。きっと日々ルリさんの為に薬草など探しに出かけているものだから疲れているのだろう。急ぎの用事ではないし、いやむしろ用事などないし。からかいに遊びにきただけだし、起こすのは可哀想だ。
それにしてもよく寝ている。そして間抜け面。あまりにも面白いから頬をツンツンつついていたら寝返りをうったクロムの口から「う・・・」と唸り声が零れた。起きたか?と慌てて手を離す。、がまた規則正しい寝息が聞こえてきてホッと胸を撫で下ろす。
起きるまで待とうと思っていたが、一向に起きる気配がない。暇だ。暇すぎる。
とうとう痺れを切らしたなまえはクロムの体をおもいきり揺さぶってやる。
だが。ここまでして起きない、いや熟睡できるのはクロムくらいだ、となまえは思った。
「そろそろ起きないとー・・・」
なまえは手をとめてクロムの耳元で囁いた。
「起きないとキスしちゃうぞ」
そう言って頬に軽く触れるほどのキスをする。思いのほか柔らかい。唇を離そうとした、その時だった。
「寝込みを襲うのは反則じゃねえのか?」
「え・・・?」
やっと声がしたかと思うとすごい力でなまえはクロムの方へと引っ張られた。
「きゃっ!?」
唇にさっきまでなかった感触。
クロムの唇がなまえのと重ねあわさった。
「ん・・・っ」
いつから起きてたのだろうか。
「っん、ふ・・・っ」
クロムの舌が、深く深く入ってくる。息ができないほどに。
なまえはクロムにそれを教えるために胸の部分をとんとんっとたたいてやる。それでもキスは止まることがなかった。
「は、・・・っあ」
クロムは唇をはなしながら舌をいれる角度を変え、何度も何度もキスをする。ずっと甘い痺れのようなものが背中を駆け巡って火が灯っているように体が熱い。何度もキスはしてきたがこんなに激しいキスは初めてだった。なんだか怖くなってクロムの体を勢いよく押した。少し乱れた息を整えながらクロムを睨んでやる。
「ねっ、寝たふりするなんて信じらんない!!」
なんだか急に恥ずかしくなって顔を赤らめて怒鳴る。
「さあ?なんのことだか。俺はついさっき目を覚ましたんだぜ?」
そんなの嘘だ。だがクロムの頬に触れた時に起きたのは事実だろう。
なんだか納得いかなくてクロムの方をじっと睨んでると。
「んだよ。先にしかけてきたのはそっちだろ。」
にやにやとなまえの方を見ながら反応を楽しんでいる。
悔しい。悔しい。こっちは優しさで、否ちょっと悪戯心もあったかもしれないけど起こしてあげようとしたのにこの仕打ちだ。
「―――・・・っ!クロムの馬鹿!」
もう起こしてなんかやるものか。そうだ今度からコハクに任せよう。適任者がいたことに今さらながら気がついた。しかしクロムは悪びれた様子もなく、
手招きされて、来い、来いという合図がおくられた。
「?」
この時素直に従ってしまった自分の愚かさを呪いたくなった。いきなり体が宙にうき、気がつけばクロムが覆い被さっていた。にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「あんなキスしておいて我慢しろってのは無理だよな」
「え?ちょ、ま」
「責任とれよなまえ」
「責任ってなんの」
耳元でくくくっと愉快な笑い声が聞こえる。
「飢えた獣にはご用心ー、ってな」
楽しそうに微笑むクロム。言葉の意味を考える。つまり、それってー。瞬時に理解したがもう遅く、なまえは引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
2019.10.05