小説 | ナノ



※いずなの双子妹

「鵺野先生っている?」
「あーなまえさんだ!」

教室にはいればいつもの顔馴染みの生徒たちが声をかけてくれた。郷子ちゃんは明るくてとても元気な女の子。いつも積極的に私に声をかけてきてくれる。その郷子ちゃんの隣にいる美樹ちゃんは私の双子の片割れであるいずなをよく慕っている。広くんは勇気がある子で他にもみんないい子たちばかりで私がドジだからたまに助けてもらってる。

「ぬ〜べ〜に用事?」
「あ、そうなの」

あたりを見まわしたが先生の姿は見えず、もしかしてと思うとそのまま同じ答えがかえってきた。

「職員室だと思うよ。案内してあげようか」
「だいじょうぶ。一人で行けるよ」
「そう言って確か迷ってたよね?」
「・・・え」
「そうそう。結局たどり着くことができなくて俺たちが連れてったんだよな」

みんなしみじみと思い出のよう語っていたが私は恥ずかしくそうだったっけ?と思い出す。覚えてなくてもみんなが言うのだから事実なのだろう。果たして中学生の年上としてどうなのか。また迷ってもいけないので甘えることにした。近くまで連れてきてもらいそこで別れる。

「先生」
「なまえくん」

職員室に案内されてデスクに向かえば当たり前だけど仕事中でテストの採点をしており、丸をつけてた手を止めて赤ペンを置いた。

「珍しいな1人か?」
「実は先生にお願いがあって・・・」
「お願い?」

−−−−−−−−−−

「南無成仏!」

バシン、と経文で叩かれ、気が入ると同時、身体にのしかかるような気怠い重さが消えた。

「これで大丈夫なはずだ」
「ありがとうございます先生。やっと身体が軽くなりました」

用事とは憑かれてしまった低級霊を祓ってもらうこと。キッカケは早朝のランニング中でのこと。休憩のために入った公園で憑かれてしまった。たまたま交通事故があった現場からすぐ近くでそれに気がつかなかったのだ。おかげで体調は最悪。頭痛や吐き気、悪寒も怠さも冴えない思考も我慢できなくて先生に助けてもらおうと駆け込んできた、という訳だ。

「笑ってしまうでしょ?同じ霊能力者なのに片方は能無しでこんな霊も祓うことができないなんて・・・」
「仕方ないさ。君が気にすることはない。」
「どうやらすぐ霊に好かれてしまう体質のようで」
「なまえくんは誰にでも好かれる心優しい性格のようだからな」
「え!?そんなことないですよ!や、やだ先生ってば・・・」

顔を赤く染めてもう!と言えば先生は無邪気に笑みを見せてその笑顔に更に頬が赤く染まる。先生は優しくてこうやっていきなり押しかけても嫌な顔ひとつせずにしょうがないなって言ってくれる。たまにこの優しさが胸に刺さって苦しくなる。自分にもう少し力があったら。せめてこんな霊を祓うことができるだけの力があったなら。いずなちゃんに頼めばいいのだけどついつい先生に会いたくて。頼っていいんだよって、その言葉の通りに甘えてしまってる。駄目だなあ、本当。

「中途半端なこの体質のせいで先生にご迷惑を・・・」
「迷惑?ははっ!そんなこと思っていないよ。なまえくんも俺の大事な生徒の一人だ」

くしゃくしゃと頭をやられる。子供扱いされてる気がするが、今はそんなことどうでもよくなってしまった。先生が触れる場所から熱があがって別の意味で胸が苦しくなって先生のことばかり考えてしまって。

叶わないと思いながら願ってしまう。大事な生徒の一人じゃなく特別な一人の女の子にしてください。

そう言葉にしようと決意した瞬間、生徒たちの先生の名前を呼ぶ大きな声にかき消された。


(ん?なまえくん何か言ったか?)
(いっいえ!なんでもないです!)

もう一度、なんて言えるはずないじゃないですか。先生のばか。



title/睫毛



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