小説 | ナノ



「なまえちゃん。二十歳のお誕生日、おめでとう。」

12時を過ぎ、皆が寝静まった頃。佐々木に起こされた時は何事かと思ったが、それはすぐに解決した。テーブルには誕生日おめでとうと書かれたホールケーキ。少しだけ皆より早いお祝いに目を瞬かせる。クラッカーの中身がふわふわと宙を舞い、落ちていく。目の前の大きなケーキと佐々木を交互に見た。

「え、え、なんですか?」
「ちょっとだけ、皆より先にお祝いとおめでとうが言いたくて。」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです!」
「よかった。」

そう笑う佐々木の表情はいつもと同じなのに、違う感じがして、柔らかい。なんだか変な気分だ。机に置いてある年代物のワイン。価値はわからないけれど相当高そうに見える。いいのか、こんな高そうなワイン、わたしたちだけで最初に飲んでしまっていいのだろうか。あれこれ考えているうちにワインがグラスに注がれる。初めての赤ワイン。ドキドキしてほうっと息をつく。

「わあ・・・」
「はじめてのお酒だから少しにしとこうか。」

グラスのふちでカンと音を鳴らし乾杯するとおそるおそる口をつけワインを緩やかに流し込んだ。

「おいしい・・・」
「よかった。」

とろんとまどろんだ目をしている。まさか、これは。佐々木の勘が当たる。どうやら彼女はお酒にはそこまで強くないらしい。最初の一杯を飲んで次の半分あたりから寝てしまった。時刻は25時を過ぎたし、寝るならせめてソファではなくベッドで寝てもらいたい。

「なまえちゃん」

しかし、いくら揺さぶっても起きない。いくらなんでも無防備すぎやしないか。これは。

「食べちゃってもいい、ってこと?」

耳元で囁く。しかし返事はない。そのかわりに安心するようにすやすやと寝息をたてて眠る姿に息を吐く。

無防備に眠る君が悪いんだからね。唇を優しくなぞり、柔らかな膨らみにそっと自分のを押しつけた。近づいた時に香る甘い匂いがいとも簡単に理性を崩す。「ん。」と漏らした声に目を覚ましたようでもう一度名前を呼ぶ。そうしたら僕が今何をしたのか知らない彼女はいつもの笑顔で「佐々木、一等・・・」とへにゃ、とした表情で僕の名前を呼ぶ。先ほどの罪悪感からか、なんなのか、僕はもう一度唇へ、今度は最初よりも長めに口づけた。

「さ、さき、いっと・・・?」

唇を離した途端に困惑している声が耳に響く。どちらにせよ、引き返せない。たとえ嫌われても君に触れられないことが僕にとっては毒なんだ。優しく髪を撫でて、もう逃がさない、と泳ぐ瞳をまっすぐ射貫くよう捉えて、いままで隠していた想いを言葉にする。

「なまえちゃんが、すき。」

さて、君はどんなふうに悩んでどんなふうな答えをくれるだろう。



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