「つきあってるふりをしてほしいの」
きょとんと、部屋にいた誰もが目を丸めた。零はなにを言われたのかいまいち理解していない様子。
「お願いれーちゃん!私の偽彼氏になって!」
「えええええ!?」
「やだ!いきなりなに言ってるの!」
「だって、い、一大事、なの」
「馬鹿なこと言わないで。桐山くん困ってるじゃない」
「おねーちゃんには分からないの!」
よく分からないけど最近の中学生って進んでるんだな。いや、でも、あのナマエちゃんがこんなこと言うなんて変だ。おかしい。きっとなにか理由があるに違いない。零は側に近寄りしゃがんだ。
「なにか理由があるんでしょ?」
そう言えば身体が揺れ、顔が曇った。
「・・・告白されたんだけど」
「え!嘘っ誰?」
「ひなちゃんおさえて・・・」
「そ、それで断ったんだけど、それでもずっと何回も何回もしつこくて付き纏われて」
「やだストーカーみたいじゃない」
「だ、だから年上の人とつきあってるって言っちゃって、そしたら会わせろって・・・忙しいひとだから無理だって言ったんだけど・・・」
「聞きいれてもらえなかったんだね?」
零の言葉に頷いた。いつのまにか溢れ出てしまった涙を袖で拭う。そっと手を握られて顔をあげた。
「れーちゃ、」
「僕でよければ力になるよ」
「つ、あ、ありが、と」
「お姉ちゃんも力になるからね!」
「わ、私もっ」
「モモもー!」
「み、みんな、ありがと〜・・・っ」
温かい。早く話せば良かった。
日曜日。学校の近くの公園で会うことになった。
「こちらが彼氏の桐山零くん」
「こ、こんにちは」
納得してくれるだろうか。してもらわないと困るのだけど。零を見た男の子はぽかんとしていた。だが、すぐ顔を怒りに歪めた。
「なんでこいつなんだよ!俺の方がよっぽど」
「やっやだ痛い!」
肩を掴まれた手を払い除け、恐怖に耐え切れなくなり零の後ろにまわり身を隠した。
「おい!」
「ちょ、暴力は・・・!」
「退けよ!」
完全に頭に血が上っている。このままはまずいかもしれない。
「ナマエちゃんごめんね」
「えー・・・」
なんで謝罪を?とは言わせてもらえなかった。零の唇が重なっていたから。あまりに突然で呆然とする。唇が離れて零と目が合う。なにをされたか、だんだんと理解した。顔を真っ赤に身体を震わせるが引き寄せられて零に抱きしめられた。
「れ、れーちゃん!?」
「もうナマエちゃんに近づかなでくれるかな」
諦めてくれと目でいう。
「っくそ!」
男の子は悔しそうに走り去っていく後ろ姿に零は暴力沙汰にならなくて良かった。と息を吐いた。
「きっともう大丈夫」
だが、返答はない。不思議に思い顔を覗き込んだ。戸惑っている。胸が傷んだ。してしまったことは今さら後悔しても遅いのだけど。抑えきれなかった。誰にも渡したくなかった。
「れ、れれれ、れーちゃ、なんで・・・?」
「ほんとうは言わないたつもりだったんだけどやっぱり無理みたいだ」
「え?」
言ったら嫌われるかな。でも、言わないほうが、
「ナマエちゃんが好きなんだ。だから、ふりとかじゃなくて、」
ほんとうの彼女になってください。