「あのバカ猿起こして来い」
そう三蔵に言われて無理矢理部屋へと押し込まれた。どんだけ起こしても起きず、ご飯の時間になっても起きない悟空に痺れをきらしたようだ。悟空にしてはめずらしいな、と思いつつ、なんで私が。という思いもあった。別に悟空が起きなくても、ご飯が食べれなくとも私にはなんの問題もない。だが、そう口にしようとするとものすごい形相で睨まれて私が殺られそうなので静かに、大人しく従うことにしたわけだ。転がってる枕を拾いつつベッドを覗くと悟空がそれはもうとても気持ちよさげに爆睡していた。
「(あー、起きるわけないじゃん)」
それでもなんとかして起こさなければ自分の身が危ない。どうしたら目を覚ますだろう。あちこち傷だらけの悟空を見て殴られたんだと理解した。それでも起きないのだから自然に起きるのを待てばいいのだと私は思う。正直めんどくさい。その誰もがめんどくさがることをおしつけてくるのが三蔵だ。ほんと嫌になる。はっきり言えない自分も嫌になる。だから天真爛漫な悟空がうらやましいんだよなあ。絶対言わないけど。
「悟空ーおきてー」
とりあえず、揺さぶってみた。結果、効果はない。揺さぶるしかできないよ。八戒はいなかったから助けを求めれなかったし。こうしてみると悟空って可愛い顔だちしてるな。見入ってる場合じゃない。
「こうなったら鼻と口をふさいで息の根を止めてみるしか・・・」
なんて、できるわけないのだけれど。ほんとうに止まったらやだし。あー、なんか疲れてきたな。もういっそここで待ってようかな。うん、そうしようかな。ベッドから降りようとしたら悟空の手によって引っ張られた。
「わ・・・!」
腕に収まり抱き枕のように抱きしめられる。耳元で悟空の寝息が聞こえる。「ジープ」と寝言が聞こえ自分は違うのに。
「ひゃ!」
さわさわと身体をあちこち触られて甘い声をだしてしまう。ちょっと、どこ触ってんのこの男は。
「ちょ、悟空!ほんとは起きてるんじゃ、な、」
ふにゃり、と触れたのは唇。暫くその場に固まる。
もそりと布団の塊が動いてその場から飛び降りた。
「くあー、良く寝た」
悟空が呑気に欠伸をする。だが、私の頭の中はぐるぐるさっきの出来事が頭から離れない。寝惚けてたとはいえ、自分は、悟空と。恥ずかしすぎて悟空の顔が見えない。胸がぎゅうってしてふわふわしたこの気持ちはいったいなんなのだろう。
「あれ、ナマエ?」
私に気がついた悟空が声をかける。いまの私にはいっぱいいっぱいで。
「・・・ごはん、三蔵たち、待ってる・・・」
「わ!まじ!?俺そんなに寝てた!?」
こくん。頷くしかできない。喋らなかったのが不満なのか悟空は口を尖らせ拗ねたような声をだす。
「なー、名前なんか怒ってる?」
「・・・お、怒って、ない」
怒ってはいない。戸惑ってるだけ。もちろん悟空はキスしたことは知らないから、当たり前だけど、至って普通で。分かっているんだけど、少し淋しくて、悲しい。
ずい、と悟空の顔が目の前に近寄って、私は固く目を閉じる。悟空の大きな掌が額に触れて「熱はねえな」なんて声が聞こえたものだからさらに私は勝手に勘違いしたことに馬鹿らしく泣きたくなった。
「大丈夫だから」
手を退かす。触れられた部分が熱を持って熱かった。
「先、いくね」
「おう」
どこかおかしいナマエに悟空はあとでもう一度どこか悪くないか聞いてみよう。今は
「腹減った」
やっと戻ってきたナマエを三人はやっと来たという表情で見た。
「悟空はどうした」
「・・・知らない」
「あ?」
顔を真っ赤にしたナマエになにがあったのか知る由もないが、なにかあったのだということは誰もが察しがついた。にやにやと悟浄が口を開く。
「まさかお前」
「・・・」
「悟空と、」
「わー!知らない知らない!」
暫くはからかわれることに悟空を恨んだ。ちくしょう。覚えてろよ。