"久しぶりに休みもらえた!いまから家に行ってもいいかな?"
幼馴染の陸くんからメールが来て、いいよ。とだけ返信。それから10分後陸くんはやって来た。あげる、と言って渡されたのは白い箱。私の好きなお店のだった。きっと中身も私の好きなショートケーキだろう。
「わざわざ買ってこなくたって、良かったのに」
「ナマエそこのケーキ、好きじゃん」
「・・・そうだけど」
陸くんが来てくれれば私は嬉しい。そう言えたらいいけど言えるわけない。言ったら恥ずか死ぬ。
「でも大丈夫なの?一日しか休みもらえてないんでしょ?」
「いーって大丈夫!」
「でも、陸くん忙しいのに・・・」
「俺がナマエに会いたかっただけだから」
「っ」
だから反則なんだってば、その笑顔は。言葉だって。陸くんのことだからきっとなにも考えていないんだろうけど。お茶いれるからその間座って待ってるよう促すとソファに腰をおろしてきょろきょろと部屋の中、周りを見まわした。
「ナマエの家に来るのなんだか懐かしいなー」
「大袈裟。でもそうかも。」
陸くんが私の言葉に不思議そうに首を傾げてる。その表情に私はクスクスと笑った。
「だって陸くんいつの間にか皆の人気者なんだもん。」
アイドルになる前は私だけの隣にいたのに。会いたくなったらすぐに会いに行けて、好きな場所にも自由に行けて、なにも気にしなくて良かった。こんなに近くにいるのに遠い人みたい。そう考えたらもやもやして胸が押し潰されそうになって苦しくなる。やだ。私だけの陸くんだもん。陸くんの良いところは私だけが知っていればいいの。そう思うのに。陸くんを籠に閉じ込めるなんてこと、私にはできない。だって自由に羽ばたいてほしいもの。思ってること無茶苦茶なのに。陸くんには悲しい顔してほしくないから。
「っ、陸くん?」
ぎゅってされて暖かな温もりと安心する優しい香。優しく頭を撫でられて抱きしめてる腕に力がこもった気がした。
「陸くん苦し、」
「ナマエなにかあった?」
「え?」
「辛そうな顔してる」
「そう?」
顔にでてただろうか。昔からポーカーフェイスは得意で何を考えているのか分からない子だと言われたのに。陸くんの前だとそれができない。そっと口を開けた。
「私・・・ファンの子たちに嫉妬してるみたい」
「ナマエ?」
「私、テレビで輝いてる陸くんが好きだよ。歌って踊ってキラキラして・・・眩しすぎるぐらい」
困らせたいわけじゃ、ない。ただ、私が我がままなだけ。独り占めしたいだけ。
「ファンの子はファンの子だよ!」
「大事にしなきゃだもんね。こうやって会うのもやめたほうが」
「いやだ!」
"いい"という前に陸くんが声を荒げるものだから驚いて言葉が詰まってでてこなかった。
「なんでそんなこと言うんだよ!」
「え、え!?だって」
「もう俺のこと嫌いになった?」
「なんでそうなるの!?
「だってそうだろ!?俺はナマエが傍にいてくれるから頑張れるのに・・・!」
「だって私、陸くんの邪魔、したくな、いっ」
鼻を摘ままれ変な声をだしてしまった。少し赤くなってひりひりとする鼻をさすって何事かと見上げた。なんだか怒ってる。こんな顔の陸くん久しぶりに見た。
「邪魔なわけないだろ。ナマエは、特別、だから、」
「陸く、」
次に見せた陸くんの表情にふっと微笑んだ。
「馬鹿ね、なんで陸くんが泣きそうな顔してるの?」
「しっしてない!」
「強がらなくていいのに。ありがとう。」
やっぱり笑った顔が好き。笑顔を守りたい。
「陸くーん。麦茶と緑茶どっちがいい?それとも他のものがいい?」
キッチンからリビングへ声をかける、が返答がない。どうしたのだろう。聞きにいこうと向かえばソファの上で気持ちよさそうにすやすやと眠っている。どうりで。なにこの安心しきった顔。
「やっぱり疲れてるんじゃない」
無理しちゃって。ため息を一つ吐いてタオルケットをかけてあげる。昔から変わらない、相変わらずの可愛い寝顔にきゅうっとなる。変なの。寝顔なんて、見飽きてるはずなのに。
唇を寄せてそっと頬に触れた。
「おやすみ、陸くん」