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「食え」

朝早くIDOLiSH7が住んでいる寮へと呼び出されたかと思えば和泉三月は私の両手にドンっと少し大きめな包みを手渡された。いきなりの行為に訳が分からない。だがその訳が分からないなりにも一体なんなのかを理解しなければならないのだ。このサイズ感からいってお弁当だろう。問題はそこじゃない。なぜ私がお弁当を作ってもらわなければならないのかが問題なのだ。作って欲しいとお願いした覚えはない。ダメだ。幾ら考えても答えはでない。

「これ、は?」
「弁当」
「それはなんとなく分かったけど、なんで?」
「お前朝は?」
「食べたわよ。今から準備してたら間に合わないもの。」
「何食べた?」
「・・・・・・・豆乳」
「ほらみろ!体調管理も仕事の一つだろ!」

確かに三月の言う通りなのかもしれないけど。

「朝食べれない」
「食わねえからだんだんそうなるんだよ!無理に食ってでも肉つけろ!」
「えええええ・・・」

いきなりなんなのだ。普段から食に関しては少し、煩かったけどこんな無理強いする人ではなかったと思う。心配してくれるのはいいけれど他人にあーだこーだ言われるのは好きじゃない。そのことはずっと長くいる三月は知ってると思ったのに。押しに弱い私は渋々折れる。

「い、いただき、ます」
「よし!」

満足気にニッと笑った三月はわしゃわしゃと頭を撫でた。なんて扱い。


「沢山食って大きくなれよ!」
「よけいなお世話!」

べっと舌をだしてやっても三月はただ笑って気を付けていけよってすぐ子供扱い。悔しい。


「あれ?珍しい。今日はお弁当?」
「あー、うん。ちょっとね」
「なんかサイズ大きくない?そんな食べないでしょ」
「あははは・・・」

もう苦笑しかでない。明らかに男子が食べるお弁当箱。普段の自分はお昼はパン一個・栄養補助食品などやっぱり軽食のようなもので小食なのだ。いきなりこんなに食べろと持たされても無理がある。おかずだけならなんとかなりそうだと必死に食べる。

「そういえばIDOLiSH7見た?」
「見た見た!かっこよかったよね〜」

また始まった。ここ数日お昼の会話はIDOLiSH7の話。聞き飽きている。そうは言えず、いつも聞き流している。確か昨日はどこぞの人気グループと料理対決のバラエティー番組にでるって言ってたっけ。

「一度でいいから彼の料理食べてみたいねえ」
「・・・」

彼女らの目の前で広げて今食べてるのがまさにそのIDOLiSH7の一人三月が作ったお弁当だって知ったらどうなるのかな。もそもそと箸を動かし租借をして食べ進める。なんだか中身が私の好きなおかずばっかりな気がする。気のせい?うん、絶対気のせい。だって三月がわざわざ私のためだけに作るなんてあり得ないもの。なにか裏があるんだ。その手にはのるものか。でも残したら悪いから全部食べるけど。

「・・・タコさんウインナー、唐揚げに卵焼き、デザートに兎リンゴって小学生か」

これに関しては一言言ってやらねば気が済まない。お弁当が必要ないってこともはっきり言わねばならない。だって三月は今が大事な時期なのに私なんかに構ってもし失敗したら。それこそとばっちりだ。予鈴が鳴って慌ててお弁当箱をしまう。包みからなにか紙切れのようなものがひらりと舞い落ちて拾う。

「ばかじゃないの」

"食べたいものがあったら言うように。絶対残すんじゃねえぞ"

空っぽのお弁当箱を見たらよくできましたってあの無邪気な笑顔で褒めてくれるんだろうな。ほんと仕方ないな。世話やきお母さんに暫くはつきあってあげますか。

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