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どうしよう・・悪いことしちゃったな、
あの人すごく困った顔をしていた。きっと私が泣いてあんな態度をとっちゃったからだ。


(うう・・胃が痛い、)


「名前」
「ひゃわあっ!?」


誰かに肩を叩かれて思わず上ずった声をだしてしまう。そこには怜がいた。


「帰りましょう」
「う、うん・・」

無言で歩く怜を見上げる。なんだか少し怖かった。

「ねーえ、怜ちゃん」
「なんですか」
「手、繋いでいい?」
「は、!?いきなりなにをっ」
「ふふっ、怜ちゃん顔まっか」
「・・・からかったんですか」
「そんなことするはずないよ。ただね、怜ちゃんと手を繋ぎたくなったの」

ふんわり。そんな感じの柔らかな笑顔を怜に向ければ、さらに顔を赤くして眼鏡をくい、と持ち上げた。なにも言わずに差し出される手を名前は嬉しそうにぎゅっと握った。


「わーい」
「・・名前は橘先輩が怖いんですか?」
「た、ちばな?せんぱい?」
「あー、今日部活で会った長身の彼です。」
「!」

そう言えば名前の顔からさあっと血の気がひいていくのがわかった。目に涙を浮かべてぷるぷると身体を震わせて。


「れっれれれ、怜ちゃ、っ 私酷いこと、」
「とりあえず落ち着いてください」


名前はこくこくと首を縦にふった。そして次に小さなため息が聞こえた。


「あのね、やっぱり、私、人が怖い。あんなに優しそうに私に話しかけてくれた人は初めてだったし・・でもいざ話そうとしたら緊張しちゃって」
「橘先輩は名前が思ってるような人じゃないですよ」
「それは分かってるの!怜ちゃんのいじわる!」

手は優しく繋がれたまま、怜は片方の手で名前の頭を撫でた。怜の言うことは分かる。分かってるつもりだ。でも、怖い。あがっちゃって、なにも話せなくなる。克服しないといけないことは分かっているのに。なんで隣にいる幼馴染とは大丈夫なんだろうか。全然、分からない。


+++++++++



昼休み。怜から携帯に着信があった。久しぶりに屋上で食べようと。いつもは別々なのにどうしたんだろう。小首を傾げながら屋上へ向かった。後に後悔することになるとも知らずに。


「名前!こっちです!」
「、怜ちゃ、っ」

危うくお弁当を落としそうになる。怜の周りに沢山人がいるのだ。男の子三人に女の子が一人。あの中に行く?嫌だ。嫌だと思ったら足が震えて動けない。立ち尽くす自分を怜が引っ張ってなんとかそこまで行く。そしてまたフリーズ。


「こんにちは」
「あ、・・こん、にち、は・・」


神様はいじわる、だ。こんなふうに彼と会わせなくていいのに。同じように優しく笑う彼は橘真琴と言うらしい。


「へえー、名前ちゃんって言うんだね!怜ちゃんの幼馴染なんだって?僕は葉月渚!名前ちゃんは泳ぐの好き?僕たち最近水泳部を立ち上げて・・」
「あ、う、・・」
「渚くんそれぐらいにしてあげてください。名前が泣きそうになってますから」
「あっ、ごめんね!」


離れてくれたことでほっとする。ありがとう怜ちゃん。気がつかれないようささっと怜の影に隠れる。じつは先ほどから真琴と目があう。自意識過剰かな、と思ったがじつはそうじゃないようで。


「怜ちゃん、怜ちゃん」
「なんですか」
「さっきから橘先輩がこっち見てくるの。昨日の私の態度に怒ってるのかなあ・・?どうしよう怜ちゃん・・」
「自業自得でしょう。」
「そんなっ」


じ、と見つめる松岡江はそんな二人のやり取りを見て口を開いた。


「名前ちゃんと怜くんって付き合ってるんですか?」
「えーっ、そうなの!?」
「へ!?ち、っちちち、ちが、」
「違いますよ!変なこと言わないでください」
「違うの?」
「私と怜ちゃんは幼馴染、であって・・その、・・」
「そのへんにしとけ渚」

ふわり。とふってきた優しい声色に顔をあげる。真琴が止めるよう、渚に注意してくれてる。

「でも気にならない?マコちゃん」
「そういう問題じゃないだろ」
「ごめんなさい。私が変なこと言ったから」
「いや江ちゃんのせいじゃないよ」
「あ、あの・・」

お礼を言おうと真琴に声をかけたとこまではよかったのだが。そこからが問題だった。顔が上手く見えなくて、地面ばっかり見てしまう。距離だって微妙にとってしまっている状態で。あ、涙でそう。身体が震える。声がでない。変な子だと思われる。ぽん、と頭に手がおかれてそのまま撫でられる。

「気にしないでいいよ」

分かってもらえたみたいで。顔をあげたら真琴と目が合う。


「やっと見てくれたね」
「っ・・」


その優しい笑顔は何度か見た筈なのに。私の心臓は止まることを知らないようにバクバクと音をたてた。



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