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黄瀬さんの周りにはいつも女のひとがいた。撮影現場でも、そう。
早く撮影が終わりそうだから食事でもしよう、と黄瀬さんからメールがきたのはついさっきのこと。私は久しぶりのデートに嬉しくなって一昨日買ったワンピースをおろした。リボンがついた春色のパンプスに、髪はコテで緩く巻いてヘアアクセをつけてメイクも普段とは違って頑張った。精一杯頑張って、黄瀬さんと並んでも変じゃないようにはしたつもりだ。鏡の前で入念にチェックしてよし、と気合いをいれた。


(早くつきすぎちゃった・・黄瀬さんは)


やっぱりまだ撮影していて、黄瀬さんは写真を撮られていた。ファッションカタログらしくて、少し先取りした服を身に纏う黄瀬さんは、恰好よくて、ああこんな素敵なひとが自分の彼氏なんだ、と。思ったら嬉しいような恥ずかしいような気持ちで自然と頬が緩んだ。15分後、撮影が終わって黄瀬さんが戻ってくる。私に気がついてくれたようで笑ながら手をふってくれた。私も慌ててふりかえす。やっと、デートだ。これから先は私だけの黄瀬さん。


「黄瀬さん!」
「お待たせっス!」
「お仕事お疲れ様」
「もうくたくたっスよ〜名前に癒してほしいっス」
「ふふ」


可愛いなあ。店に行くまでの道を歩いている途中で黄瀬さんの友達だというひと数人に会った。黄瀬さんは嬉しそうに話ていて、私はその光景をただ黙って見ていた。無邪気に笑う黄瀬さん。普段とは違って、こんな表情の黄瀬さんを見るのは初めてで、なんだか嫉妬してしまった。隣にいた女のひとたちはスタイルが良くて美人ばかりだった。豊満な胸がぎゅ、と黄瀬さんの腕に押しつけられる。


「ねえ、折角会ったんだし飲みにいかない?」
「あー、実は俺、これから用事が・・」
「終わってからでもいいよ」


なんではっきり断ってくれないの?さっきまでの楽しかった気持ちがもやもやに変わる。私はスカートを握りしめて黄瀬さんに声をかけた。


「黄瀬さん」


その声に一斉に皆が自分を見た。


「私帰ります」
「え、ちょ、」
「だから黄瀬さんは私に構わないでそのひとたちと飲みにいってください」
「名前!」
「さよなら」

笑って、走った。パンプスでヒールが高いのによく走れたと思う。けれど早くは走れなかった。すぐに黄瀬さんに追いつかれて、手首を掴まれた。逃げれなくなった私は素直に足を止めた。

「なんで帰っちゃうんスか」
「なんか、邪魔しちゃ悪い、かなって・・」
「そんなことあるわけないじゃないっスか!まだ彼女だって紹介してないし、」
「紹介しなくていい、です、」
「は?」
「だって、私子どもだし、あのひと達みたいに綺麗でもスタイルよくもない、黄瀬さんみたいな人には不釣合いの女の子なんです」
「・・それ本気で、言ってんスか?」
「だって・・なんで私みたいな子どもを黄瀬さんは選んでくれたんだろうって、私っ、不安で・・!」

気がついたら黄瀬さんの腕の中にいた。ぎゅ、って抱きしめてくれてすごく心地いい。

「黄瀬、さ、」
「不安にさせてごめん、けれど俺には名前だけなんス。優しくて、いつも俺を心配してくれて、笑顔がとびきり素敵な女の子、」
「黄瀬さん」
「名前じゃなきゃ俺は、」


今度は私からぎゅ、ってした。黄瀬さんは驚いた表情をしていた。そのまま頭を撫でて、幸せで涙を流した。


「名前・・?」
「このまま、で、」


震えた声。きっと泣いてるのバレちゃってるんだろうな。ねえ、黄瀬さん。
私、幸せです。


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