見廻り中、なにやらそわそわと少し大きめなふろしき包みを抱え、困った表情を浮かべる少女を見かけた。年は自分と同じぐらいだろう。お春殿と同じピンク色の華やかな着物を着て、ちらり、と覗くレースが雰囲気とあっていてとても似合っていた。ついには少女は立ち止まってしまう。これはいけないと思い、少女へ声をかけた。
「どうされました?」
声をかければ少女は目を丸くして、自分を見た。ふわりと柔らかな笑みを浮かべられ、どきりと胸が高鳴った。
「すみません。えと・・蟲奉行所はどちらへ行ったらよろしいですか」 「蟲奉行所へ行きたいのですか?」 「うん。私の大事な人がいるの」 「そうでしたか!拙者はそこでお勤めしてる故、ご一緒させていただきます!」 「ほんと?お侍さんが一緒だと心強いわ」 「拙者は月島仁兵衛と申します!」 「私は名前」
門をくぐれば見知った者の姿がちらほらと、あった。
「火鉢さんこんにちは」 「名前!?やだ久しぶりー、ってなんで月島なんかと一緒に!?」 「もしかして火鉢殿、が名前殿の大事なお方ですか!?」 「馬鹿!アンタねえ、この人は・・!」
「おや名前。どうしてここへ」 「小鳥殿のお知り合いで!?」 「あ、うん。彼女は」 「兄様!お久しぶりでございます」 「え、兄様・・?」 「兄様、私仁兵衛さんに困っていたところを助けていただきましたの」 「それは、それは。仁兵衛くん僕の妹が迷惑をかけたね」 「いえ!人々を蟲以外からお守りするのも武士の務め・・って、なんと!名前殿は小鳥殿の妹でしたか!」 「全然似ていないでしょー」
名前はぷう、と頬を膨らませる。「なにそれ」、と可愛らしいふてくされた声に火鉢は笑った。名前の笑顔を見るとまわりの者も同じように笑顔になる。きっとそんな力があるのだろう。折角だからお茶でも、と部屋へと案内される。名前の足の動きがぎこちないのを仁兵衛は見逃さなかった。
「失礼します!名前殿!」 「きゃ!?」
いきなり抱えあげられびっくりして驚きのあまり声を発してしまう。ちらりと名前の足首を見てやっぱり、と呟く声が聞こえた。
「名前殿足を怪我されて」 「あ、・・・仁兵衛さんに会う前に転んでしまったの。その時かしら」 「赤く腫れております!すぐに手当てをしなければ!」
捻ってしまったのか仁兵衛の言う通り赤く腫れぼったかった。今頃じんわりと鈍い痛みが神経を通って刺激される。名前は仁兵衛に身を委ねようと安心しきった表情で胸の位置へと顔を埋めた。この光景をよくも思わない人物が二人。わなわなと身体を震わせて、火鉢は仁兵衛を殴り飛ばした。
「名前に!なにすんのよ月島ア!!」 「ぶべらっ!?」 「仁兵衛君!名前だけは絶対にダメだよ!?」 「な・・・なにがですか、小鳥殿、・・・」
今日も蟲奉行所は平和です
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