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「オートメイル・・」


隣の席に座っていた女からぽつりと洩れた言葉。気をぬいていたつもりはなかったのだけれど服の隙間から見えてしまったソレに瞬きを繰り返していた。ウエーブがかった焦げ茶色の柔らかそうな髪が揺れ、眠たそうな細まった瞳と目があった。


「隣のひとも鎧着てるなんて・・あなたたちどこかの旅芸人さん?」
「・・あ、ああ。まあ。そんなとこ。」


曖昧な返事をしながら隠した。女、ーー彼女はふ、と悲しそうに微笑む。


「あなたたちも『禁忌をおかした』人?」


みるみるうちに目を見開かせる彼。偽腕なんて察しがつくから。


「警戒、しないで?」
「ーーー・・あんた何者?」


あからさまに警戒している声。だけどわたしには声だけ。声だけしか届かない。


「わたしもあなたたちと同じように禁忌をおかした者。」

彼の驚いたような、言葉にならない声が耳に届く。

「好きなひとがいてねえ、でも死んじゃったの。寂しくて辛くて怖くて。気がついたら父の残した練成術で彼を生き返らせようとしていた。」


「でも失敗しちゃった。ソレは人なんかじゃなくて化け物だった。支払った代価はわたしの視力。」
「じゃああんたもしかして今まで、・・」
「うん。ほとんど見えてない。真っ暗闇であなたたちと話してる。ずっとこの身体と向き合ってきたからもう慣れちゃった。」
「それでも・・不自由でしょ。」


違う声。きっともう一人の方だ。


「あんたさっきなんで俺が一人じゃないって。鎧のこと・・」
「音、かな?こんな身体になっちゃってからは聴覚だけを頼りにしてきたからね。異常に敏感なの。」
「俺の腕がオートメイルだって分かったのは・・?」
「言ったでしょ?音。微かな音も聞き逃さない。あなたたちには聞こえない音をわたしは聞き取れる。」


彼女はなんて顔して笑うのだろう。だけど、禁忌をおかし、代価を支払ったあとの、結末。そのあとの気持ち。よく知ってるから。


「俺たちはもとの身体に戻る手がかりを捜す旅にいま、でてる。あんたも来るかい?」
「ちょ、兄さん?なにを・・!」
「いいえ。わたしは行きません。あのひとが愛したこの街から離れたくありません。それに、なにかにすがるのには、もう、疲れました。」


彼女はよく笑う。ただ違うのは心の底からの、本当の彼女自身の笑顔ではない、ということ。俺は小さくそうか。と呟いた。彼女もはい。ともう一度。はっきりと。ごめんなさい、ありがとう。と。そう言った。

「んじゃ、俺たちは行くな。ごっそーさん。」

ガタリ、と椅子が揺れる音がする。その音で彼らが立ち上がったのだと分かった。


「待って。名前は?」
「・・・俺がエドワード=エルリック。」
「僕が弟のアルフォンス=エルリック。」

声だけじゃわかんねーと思うけど。彼は苦笑気味にそう言った。

「そう。あなたたちがあの噂の・・」

ぽつり、ぽつり。彼女は言葉を洩らした。決して目をあわせようとはせず

「あなたたちの顔が見えなくて残念」


そう儚げに笑う彼女の顔が頭に染みついて、なぜだか自分のことのように泣きたくなった。



こたえを知らないままでいる

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