10:57 宮田
時刻は8時。携帯が着信を知らせる。まさか、と思い画面を見れば幼馴染の名前がディスプレイに表示されており、息を吐く。一度は無視して着信は途切れる。見ていた雑誌に視線を落としたとき、もう一回携帯が音を鳴らす。これは、でないといけないやつか。なにかあっては後々めんどうだしでることにし通話ボタンを押す。すぐに聞こえてきたのは切羽つまった大声で叫ぶ幼馴染。なんだ?
「あっいちろー!」
「煩い。騒ぐな。なんだよ、こんな時間に。」
「く、黒いやつが部屋にでた!」
「黒い?・・・ああなんだゴキ」
「言っちゃだめ!とにかくなんとかしてくれなきゃ寝られない!」
「ったく俺は疲れてるんだよ。練習後くらい休ませてくれ」
「アイツ退治したら休んでくれていいから!」
必死に助けてと訴えたら渋々折れてくれて、退治しに来てくれた。部屋の中を見回すがいなさそうだ。
「おいいないぞ。どこにいるんだよ」
「え!嘘!絶対どこかにいるってば」
ふと横をみたら黒いかたまりが動いて思わず叫んだ。
「ぎゃあああ!」
「っ!?」
宮田に体当たりして抱きつき反応できずその勢いのままどしんと派手な音をたてて倒れこんだ。
「いってえ」
「あっご、ごめん!手!怪我してない!?」
「大丈夫だ。お前こそ平気か?」
「う、うん。いきなり現れたから驚いちゃって。心臓止まるかと思った。」
「大袈裟だな」
「とにかくお願い!」
殺虫剤を手渡す。あと新聞紙丸めたのとか、なにか叩くもの。とりあえず殺虫剤をふりまくが、はたしてこれで死ぬのか。
「いちろー、そっち!あ、逃げた!」
やはりしぶとい。そしてまた姿を隠す。
「埒があかねえ。部屋もう少し片付いてたらアレもこなかったんじゃねえか?」
「う、それはいま言う事じゃないと思う」
「とにかく明日も早いし俺は帰るぜ。」
「帰っちゃうの!?」
上着を羽織ろうとする腕に抱きついて止める。
「泊まってけば!?」
「ふざけんな、なんで俺が。いないならいいだろ、そのうちどっかいくさ」
「いかなかったらどうすんの?またでたらどうすんの?」
「・・・」
「お願い!」
「・・・っ!」
ぎゅうぎゅう、ひっつくものだから、腕に胸が押し当てられ感触が伝わる。・・・わざとか。これは、わざとなのか。
ひとり理性と格闘していたことなど目の前にいるこいつは知らないんだろう。