16:21 木村
自分の家が営む花屋にその人はたまに花を買いにくる。
「今日はどうしますか?」
「え、えと、前にお勧めしてくださった花は可愛かったんですけど、どれも、なぜかすぐに枯らしちゃって」
「じゃあこれなんかどうですか?初心者にも育てやすくて枯れにくいですよ」
「じゃあそれにしてみます」
いつも勧めた花をとても嬉しそうに買って帰ってくれる。その笑顔を見るのが日々疲れた自分を癒すご褒美でもあった。いつしかその感情は恋愛というものに変わった。きっかけは単純だった。俺はついにこの気持ちを伝える決心をする。
「好きです」
彼女はこの言葉を聞いた後呆けて動かなくなったと思ったら瞬間、顔を真っ赤にさせてなにも言わずその場から走り去っていった。すぐに俺は後悔した。言わなきゃよかった。言わなければずっと楽しく過ごせていたかもしれないのに。だが言わずにもいられなかった。好きで、好きすぎて、愛しい。
それから彼女が来る回数は以前にも増して少なくなり、俺は気まずさからか会うのが怖くて彼女を避けていた。それから3日くらいしてから、全く店に来なくなった。
喋れなくても彼女を見るだけで幸せだった、のに。はあ、と重たい息を吐く。
(・・・彼女に、会いたい。)
「木村〜」
ニヤニヤ顔で笑う青木と鷹村に嫌な予感。腕を首に回された。
「なんなんっすか!」
「うらやましいぜ!」
「はあ?」
「どこでひっかけたんだよ、あんな純粋無垢な可憐な子を」
なんの話だ、と思いながら聞いていると、だんだんとわかってきた。一週間前にぱったりと花屋に来なくなった彼女が今ジムの前で自分を待っているとのこと。たまたま走り込みから帰ってきた一歩に会ってそこからだんだん話が繋がっていったらしい。皆にはナンパして捕まえたわけじゃない。そう言っているのに、くそ、信じちゃもらえないし、からかう気満々の顔に正直苛々を募らせた。しかしどうしたのだろう。わざわざジムに来るなんて。あの告白以来話すのが気まずくて彼女を避けてきた。まさか彼女の方から会いに来てくれるなんて思わなかったけど。
覗いてみると確かにアネモネの花束を持った彼女がジムの前で待っていた。その花を見た途端表情が緩む。まさか・・・え?
いやもし俺の勘違い、だったら?
小さな期待、そして不安と共に俺は潔く扉を開けた。ふんわり微笑んでくれた彼女を抱きしめる。抱きしめ返してくれる優しくてあったかい手。
ああ、己惚れてもいいですか。
アネモネの花言葉はー
「あなたを愛しています」