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ハロウィンイベントは無事、成功をおさめた。

本屋に来る子どもが少しだけ増え、店内がにぎやかになった。
内装の後片付けが大変だったけど、絵本の売り上げもあがったし、松下さん情報では、近所の奥様方からの評判もいいらしい。どんな人脈と情報網だよ、というツッコミはおいといて、嬉しいことだ。


そして。
翌日の昼休憩。

「昨日来てた、森内さんの知り合いの、……なんか、オジサマ!って感じの人って、誰なんですか?」

気になっていたことを、情報網の広い松下さんにきく。

「え、もしかして賢吾さん来てたの?」
「ケンゴさん……?」
「うん。森内さんの、」
「松下さん、うるさい」

休憩室の扉が開いて、冷たい風とともに森内さんが入ってくる。11月に入ってからは、もうすっかり冬が始まってしまったようで、空気が冷たい。(ちなみに、休憩室には既に電気ストーブが置いてある。)
森内さんは片手で扉を閉め、当たり前のように俺の左隣に濁った色のパイプ椅子をひっぱりだしてきて、すわる。これは、確実に俺のデザートを狙っているときのやつだ。
松下さんはいたずらっぽく笑って、お弁当をひろげ始める。今日のお昼はサンドイッチらしい。

「あら、聞こえてた? でも私、賢吾さんに会いたかったんだもん」

そう言って、ハムとたまごが挟まった三角のサンドイッチを、大きな一口で食べる。

「俺は会いたくない」
「どうしてですか?」

その、ケンゴさんとやらは、松下さんには好かれていて、森内さんには嫌われているらしい。不思議な人だ。昨日の印象が強すぎるだけかもしれないが、俺はお世辞にも好きだとは言えない。

「あの人は、死ぬほど性格が悪い」
「えー。なかなか良い性格してると思うけどなー」
「松下さんもよっぽど良い性格してんな」

「賢吾さんはね、森内くんの伯父さんなの」

松下さんが俺に耳打ちすると、森内さんが舌打ちした。森内さんが眉間にしわを寄せて睨みすえても、松下さんはちっとも動じない。そしてサンドイッチをもう一口。

俺は、ちょっと納得する。なぜかって、笑う顔が少し似てるから。

「で、椎名。きょうのデザートはなんだ」
「抹茶プリンですけど、あげませんからね」


もう一度放たれる舌打ち。
サンドイッチをほおばる松下さんを尻目に、俺はわかりやすく怯むのであった。





森内さんが一階へ向かったあと、松下さんはいろいろなことを俺に教えてくれた。
賢吾さんが森内さんの前の店長だったこと、若い森内さんを店長の座に賢吾さんが指名したということ、賢吾さんにとって森内さんに嫌がらせをすることは愛情表現だということ。
最後のは、いささかな疑問が残るが、まあ、松下さんが言うんだから、そういうことだろう。

似てんのよ、あの人たち。と松下さんは小さく笑ったあと、「勤務年数最長だった私を差し置いて、森内くんを店長にするなんて、許し難いことだけど」と悪いオーラを出した。ヤバイ。だから松下さんは『森内くん』なんて呼び方ができるのか……。


「まあ、こういうことで、そういうわけなのよ」

……というわけだそうで。
とりあえず、俺はもう賢吾さんに会いたくはないけど。

「でもなんで、森内さんを店長にしたんでしょうね。嫌がらせしたいなら、出世させないんじゃないですか?」
「……さあね。愛じゃない?」


ふいに軽快な音楽が鳴った。メールの着信。俺のじゃない。松下さんのだ。
松下さんはぶっきらぼうにスマートフォンのロックを解き、右から左へ、液晶画面上に視線を何度か往復させる。
手慣れた印象を受けるフリック入力でそれの返信を済ませたら、松下さんは鞄の中身を整理し、帰り支度をした。

「旦那迎えにきたっぽいから帰るねー。椎名くんばいばーい」

俺は、「あ、はい、さよなら」と松下さんを見送ったあとで、松下さんに旦那さんが居る事実に今日一番、驚愕した。





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