SW5 | ナノ



最近、あいつのことをよく思い出すようになった。
全然似ていないはずなのに、森内さんを見るたびにあいつの影が濃くなっていく。

出会ったのは高校一年生の頃。
ダークブラウンの髪に、愛嬌のある顔つき。無邪気によく笑う。
背は俺より少し低くて、それをよく気にしていた。背さえ伸びれば俺だってモテるのによー、と不貞腐れた顔を作っているのが愛らしかった。
「牛乳飲めば伸びるぞ」と言うクラスメイトを前にして、苦い顔をしながらも、嫌いな牛乳を一気に飲み干していた姿を思い出す。



――ガチャリ、とドアが開く。


「椎名くん、ちょっとだけレジ交代してもらってもいいかな?」

「あっ、はい、大丈夫です」


現在十二時半。お昼休憩だ。
安いコンビニ弁当を食べ終わり、デザートのあんみつに入った頃、佐藤さんが休憩室に顔を出した。
俺と入れ替わりでお昼の休憩タイムをとることになっている。

ここでのバイトを始めてから早一ヶ月、そろそろ仕事の流れにも慣れてきた。至って順調な経路。

半分以上残っている、食べかけのあんみつを眺める。まだ手を付けていない小豆とあんずが、食べてほしそうにこちらを見ている。
……さよーなら、と俺はあんみつにプラスチックの蓋をかぶせた。
あんみつを恋しがる気持ちをどうにか抑え、更衣室に放ってある渋い色のエプロンを取りに向かう。
また佐藤さんと交代したら食べるからな、待ってろよ。


「よう、椎名」


更衣室に入ると、森内さんがエプロンを外している最中だった。
俺は隣のロッカーを開けて、エプロンを着用する。


「森内さん、今から休憩ですか?」
「ああ。プレミアムシュークリームが俺を待ってる」


森内さんは遠くの方を見つめてそう言った。
この人、『プレミアム』だとか『レア』だとか、そういう言葉に弱そうだ。確か、この前のドーナツもプレミアムだった。

「は、はあ……」と相槌を打つと、森内さんは吸い込まれるように休憩室へと足を運んでいった。
やっぱりこの人、ヤバそうだ。


俺は階段を降りていき、レジへと一直線。二つあるレジの右側には田中くんが居て、分厚い雑誌を会計し終えたところだった。


「田中くん、お疲れさま」
「あざーっす。椎名さんもお疲れさまっすー」


田中くんは相変わらず、子犬のような顔をしている(少なくとも俺の目にはそう映る)。
俺はその隣のレジに入り、慣れてきた手つきでお客さんをさばいていくのであった。



お昼の時間帯は、あまりお客さんが入ってこない。ちらほらといないこともないが、人の入りはまばらだ。

手持ち無沙汰になった俺は、田中くんに話しかける。


「……田中くんってさ、犬に似てるってよく言われない?」

「なんで知ってるんすか!?  椎名さんパネェっす!」


キラキラした目で問われる。
なんで知ってるもなにもないので、俺はただ「あーやっぱり?」とだけ返した。言葉のキャッチボールができていないだとか、そういうのは知らない。
というか、田中くんにボールを投げたら、投げ返してくるというより、ダッシュでこっちまで持ってきてくれそうだ。持ってきてくれたら、うんと頭を撫でてやりたい。


「遅くなってごめんねー」


田中くんとキャッチボールする姿を思い浮かべていたら、佐藤さんが休憩室から戻ってきた。


「大丈夫ですよー。じゃあ俺、休憩室戻りますね」


佐藤さんを見ると、なんとなくほわほわして顔が綻ぶ。
彼女はいつも可愛らしい笑みを浮かべているので、それにつられるというのもあるが、なにより同い年くらいの女の子には心が躍ってしまうものだ。
佐藤さんの短め(顎のラインよりちょっと下くらいまである)の髪がふわふわしている。
それを見ていると、なんとなく胸の内がふわふわと浮つくようになった。





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