SW3 | ナノ



「先輩、こわいです。椎名さんがかわいそうです」


救世主が松下さんと向かい合う形になる。
あまり抑揚のない声で、しかしはっきりと言葉を放つ。


「えー。鈴木ちゃん、だめ?」


鈴木ちゃんと呼ばれた女の子(まつ毛が長くてちょっとお人形さんみたいだ)が、怯みもせずに松下さんを制する。
俺より年下(っていうか、高校生?)っぽいのに、松下さんにずばっとものを言えるだなんて……!
思わず尊敬の目で見てしまう。鈴木さんは一瞬こちらを見て、それからまた松下さんの方へと視線を戻す。


「もっと、順序正しく行きましょう。私のときにそう言ったじゃないですか」
「はぁい……あのときはごめんねぇ、鈴木ちゃん」
「……もういいです、それは」


鈴木さんが松下さんを手懐けている……!  恐るべし、鈴木さん。
それにしても『あのとき』には何があったのか。きっと俺の今の状況よりひどいことが起こっていたのだろうと思う。
……やっぱり、恐るべし、鈴木さん。

こんなアホなことを考えていると、鈴木さんがちょこちょこと可愛い歩き方(歩幅が狭いのかな)でこちらへやってきた。

向こうの方で松下さんが「す、鈴木ちゃんに振られたぁ……」とうなだれているが、気にしない。


「椎名さん、大丈夫ですか。……一応、松下さんは怖い人じゃないので、あの、たぶん……大丈夫です」

優しい子だ。
一応だとか、たぶんだとか、だんだん視線が斜め下を向いてきているところとか、不安な点もあるけれど。
松下さんも怖い人じゃないことは理解できる。けれど、ヤバそうな人ということも理解できるのが、最大の難点である。

俺は鈴木さんにお礼を言い、曖昧に笑ったのだった。



「みなさん、お仕事しないと森内さんに怒られちゃいますよー?」


本棚の向こうから覗かせた、可愛らしい笑顔。俺と同い年くらい。
ええと、確か名前は、佐藤さん。
森内さんが朝礼のときにそう言っていた気がする。
声のトーンが高めでふわっとしていて、まさに女の子代表!って感じだ。薄ピンク色のふんわりスカートが似合いそう。

その佐藤さんの声に、松下さんと鈴木さんが「はーい」と返事をする。

いいね、女の子の職場、いいね!
これなら俺の長年のコンプレックスだって片手で楽々張り倒せそうだ。未来への光が見える、俺には見える……!


「ハイ、椎名はこっち。色々説明することあるから」

どこから出てきたのか、森内さんが俺の目の前にやってくる。
その黒髪と意地の悪そうな笑み(こっちはいじめっこ代表!って感じ)で未来への光が閉ざされた。
未来が見えない……向こうの方で品出しをしている女の子たち(プラス田中くん)も森内さんで見えない……。
そう思いつつも、森内さんに引き連れられ、裏の階段から二階へあがっていく俺であった。無念。





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