巡礼


この世の誰にも思い出してもらえることのない一瞬、私は架空の生物である。びっくりするほどいともあっさり、私は架空になることができる。
数学にはとんと疎いの私だが、あることをきっかけに虚数について真剣に考えこんだことがある。虚数もかつては架空の要素を含んでいた様だ。また、マイナスの数値も虚数に内包されていたと聞く。
しかし、人間はどうあれ実存しているのだから、そういった意味では絶対的にプラスの存在のはずだ。マイナスは単純に死だろう。
それでいて、たやすく架空にはなれる。なってしまう。
私という存在は私が決めているのではない。誰かの記憶にふと浮上したり、メールや手紙でつながりがあったり、顔と顔をあわせて話すことで、ようやく架空に陥ることから免れている、ただそれだけ。
妖精やドラゴンや、火の鳥。彼らほどの知名度があればこれほどよるべないことにもならないだろうに。
だから私は、習慣的に、存在を完全に忘れられているけれども確かに存在している誰かに思いをかけようとする。もちろんその人たちには会ったこともないから、互いに架空であり、想像であり、私のしていることは呆れるほど無為で、むなしく、孤独を極めている。


架空の動物について
131112 2036


←五万打記念企画記録
←お題一覧
←表紙

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -