アントワーヌ・メソッド


これは私の記憶ではない。母の証言だ。小学校にあがったその日、空の絵を描く時間があったという。おのおの小さな手もとにはクレヨンと真っ白な画用紙。
「あんたは黒と黄色と紫を使ったのよ」
彼女の思い出がたりとしては珍しく毒がない。
「宇宙も空だって先生に言ったって」
空を描いて宇宙。宇宙と書いてそら。6歳だろうと三つ子の魂は14歳を容赦なく先取りして百まで連綿と続くとでもいうのか。
そして肝心の中学2年。美術の授業でポスターの課題が出た。テーマは環境。私はまたも真っ暗な空間を広げ、中央に水色の楕円を配し、水の惑星と文字を入れようとしたところで教師に咎められた。抽象的すぎる。緑の地球にすべきだ。面倒なのでそのまま全体に濃い茶色の溝を何本も連ねた。パズルのイメージ。地球はふたつのピースに分かたれたが平和という意味もあるのよと内心でほくそえんでいた。
とはいえ絵心はもとより、あらゆる面でまず平均値に至ることがない。ひどく嘆き悩んだが、多才への憧れを諦めた途端、いろ鮮やかな迷いに目がくらみっぱなしだ。多彩でありたいと強く思う。たとえば空をあらわすための豊かな可能性と自由に埋没して、選びきれず途方に暮れるほどに。


色について
131106 0017


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