咲き先の庭


昔から桜の花が好きだ。満開の時も、六分から八分の具合も、葉まじりも、落ちたかけらも、どれも掛け値なしに愛おしい。
それは裏を返すと、単に桜以外の花をよく知らないだけ。長年そう思いこんでいた。我ながら驚くべきことに、実際にはそうでもなかった。
小さな鉢植えのジュエルオーキッドを窓辺に置いて朝な夕な眺めていたことがある。緑のビロードに金の糸で刺繍を施したかの様な葉の美しさと、淡く白い蘭の花の可愛らしさ。その不思議な交錯に息を呑んだ。
他には、木蓮、牡丹、蓮が浮かぶ。全体的にぽってりとしていて、どことなく上むき加減の佇まいが琴線にふれるようだ。花びらが幾重にも重なって芯を隠している風情も。よって、蓮はなるべく遠目から拝みたい。
花に関する拙い知識は、ほとんど香水から得たものだ。香りは好むが元の姿はそれほど、という場合ならジャスミン、ガーデニア、ローズ、ネロリ。咲く前の蕾のころが惹かれる時期。
きっと、花のまるみに深く安堵している。特にそうでもないかたちの桜はやはり別格なのだ。桜の、香りの無さもまた潔くて憧れる。矛盾では決してない。アンバーの花を想像することと同じ、ないものねだりに特有の再生のあり方だ。


好きな花
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