※捏造九十九屋さんが登場します 言うなれば神の見えざる手をもってして、だ。みずからの領域でうごめく駒を指先だけで自分の思うがままにうごかす。何食わぬ顔で人々の間を駆け巡る情報を操作し、自分はといえば高見の見物の了見でもがく世界をわらって、悲観している。嘆じている。 神様にでもなったつもりか、ただの人間風情のおまえが。人間はすきだけどねぇ、おまえはきらいだよ。偽善者。罵倒をかさねた皮肉をおくってみせれば、そんなのお前だって俺とおなじじゃあないかと九十九屋はひどくかなしそうに目前でわらってみせる。何を巫山戯たことを、おまえなんかと一緒なわけがない、虫酸が走る。と、むき出しになったかさついている感情を抑えることもできずに俺は叫ぶ。ふたりしかいない、ふたりしかいれない空間に滑稽な声が谺した。出まかせの興奮がおさえられない。さんざんな罵倒、この上ないほどの否定、罵倒、否定、その間に響くのは興奮したような荒い呼吸。脳裡によぎるのは、目前でだまってたたずむ九十九屋の泣き出しそうなわらった顔。いやだ、どうしておまえがそんな、顔するんだ。お前が俺を追い詰めていると言うのに。もっている感情をすべて棄て、泣いてしまいたいのはどっちだと。ああはやく何か言え、なにか、なにか。いつもみたいに何食わぬ顔で俺を。そしてとうとう、九十九屋のくちびるの形がうすく笑んだ弧状からゆっくりと変えられる。残酷を孕んだわずかの言葉を吐き出す。 「なあ折原、満足か?」 俺をののしり、貶み、あまつさえ否定までして。いったいおまえは満足なのか、と。 九十九屋は先と微塵も表情を変えず、常のようにひとを小ばかにした態度をとるでもなくただ淡々と言葉を羅列する。おもわず息を呑んだ。散々加虐的なことばを浴びせていた俺にとっては取るに足らない一言のはずだ。だが、返答することができない。自分でも惚れ惚れしてしまうくらいのいつもの饒舌さがてんで役に立たない。なにごとかを口から外界に、このふたりしかいない空間に吐き捨てても九十九屋のことばにはかなわない気がした。どんなに高尚を気取って吼えてみても、九十九屋の求めている返答には及ばない気がした。 むだな思考を旋回させていた脳内が、まっさらな無の状態へと帰される。こんなのはおかしい、俺じゃない、いやだ。 今まで顔色ひとつかえずに人を貶めて、結末を嘆じて悠々とわらっていたというのに。どうしてか、この男に関しては些か感情的になりすぎる。すべて知っているようなほほえみで俺のすべてを見据えて。いやだ。言葉のない否定が自分にふりかかるという現実が、いやだ。 「なあ、お前は俺と同じだ、折原臨也。料簡が狭くて、汚くて、どうしようもなく狡い。」 「認めてくれやしないか?どうせ同じ穴の貉だ。俺もお前も。人を人だと思っちゃいない。本当は自分自身がどこにあるかも知れない、俺達は。俺達のたどる道は、どうしたって平行にはなれない。ずっと繋がりつづける、同じ感情を負い、同じ結末を迎える。」 「とどのつまり、同じなんだよ。」 憐愍をはらむ慈しみの言葉を、醜悪な感情をいだいている俺にふりかけないでくれ。同じなんかじゃない、そういって突き放してくれたならどれだけ楽だろうか、お前が1番わかっているだろう?なあ、九十九屋、お前は。お前はさ。本当はよごれてなんかないくせに、よごれきった俺と一緒だと言うなんて。お前はどれだけ俺を苦しませたいの。 ----- He is not dirty. アイリスさまへ 20100619 |