三島がむかつく。全くもってイケメンなんかじゃないくせに下まつ毛だけやけに長い三島がむかつく。それ、つけまつげかマスカラつけてんの?むしりたくなるわ。
しかも、体格はアホみたいに縦にも横にもでかくて、間違ってタックルしたときにもビクともしない抜群の安定感を見せてきちゃってさあ。脂肪かと思いきや、筋肉が詰まってることにもびっくりした。マジか、ぶよぶよじゃなくて、がっちりじゃん。でもって「いてえな」って不満を漏らす。くっそこいつ、他の子とぶつかったときには文句ひとつ言わなかったくせに。そんなしょうもないことに苛立って、いつもどうでもいいことにつっかかってしまう。
のしのしと我が道のように堂々と廊下を歩く大きな背中はどこから見ても三島だって分かる。私はそんなあいつに性懲りもなく話しかけにいく。友達には呆れた顔をされ、挙句の果てに「物好き」って言われたけど、聞かなかったことにする。
「ねえ、ねえ」
「うっせー」
「うるさくないし」
「小学生みてーな返ししてんじゃねえよ」
「さっき秋葉くんに聞いたんだけどさ」
「んだよ」
出た、煩わしそうな顔。ちょっと話しかけただけでそんなんしなくてもいいじゃん。ただでさえ美形っていう単語からかけ離れてるんだからさ、愛想良くするとかあると思うんだよね〜、秋葉くん見習え。あの感じのよさを。いや、感じのいい三島ってそれもう三島じゃないかもしれないんだけど。イケ三島なんだけど。
「誕生日、七夕なの?三島なのに?」
「あ?何が不満なんだよ」
「いや、七夕ってあれじゃん、三島の似合わない誕生日ベストファイブに入るよ?」
「何言ってんだお前、このスーパースターに似合わない誕生日なんかねーよ。生まれた日がイベントだっつーの」
「いや、クリスマスイブとバレンタインとか特に無理」
「死ね、豆腐の角に頭ぶつけて死ね」
「嫌だね!なぜなら豆腐は食べるものだから!ひややっこ最高!」
「じゃあコンクリの角でも構わねえよ」
「ひっど!三島ひっど!」
「酷いのはテメェの頭だ」
口を開けばいつもこんな感じ。私も大概かもしれないけど、女の子相手にこんな事言うなんてどうなの?一回それを言ったら「女の権利を主張すんなら少しは女らしくしやがれ」って言われた。そりゃ怒るじゃん、私だって。そしたら「そういうとこだ」って言われた。むかつく。それならこっちだって名前が「優太」のくせにちっとも優しくない件についていくらでも語れるけど。名前負けないで、頑張れ。
「そもそもアンタのいうスーパースターって何?スーパーマーケットの星?」
「ちげえよ、バカか」
「バカじゃないもん!三島レベルに合わせて言ってるんだよ」
「全然合ってねえ!」
「それはそうと、七夕ってロマンチックだよねー」
「……みょうじでもそういうこと言うんだな」
「言うよ、私だって乙女なとこあるからね」
「意外とな」
「なにその言い方」
「お前ぬいぐるみと一緒に寝てるんだってな」
「えっなんで知ってるの!?」
「お前の友達から聞いた」
「敵は身内にありか!やだな、三島にギャップ萌えされちゃうよ」
「別にしねーよ」
「してよ!」
「なに強制してんだよ」
でもまあ、こんなやりとりが嫌いじゃなくって、ついつい話しかけたくなっちゃう。三島は不機嫌な顔をしつつも、いつも相手をしてくれる。習慣みたいで、気づいたらそれがないと物足りないくらいになっていた。
「あ、ねえ、ミッシーマ、おなかすいた」
「その呼び方やめろ」
「購買いこうよ」
「お前のおごりならな」
「いいけどクリームパンは共食いになるからだめだよ」
「なんねーよブス」
「うっさいブスって言うな」
そりゃかわいくないかもしれないしある程度は自覚してるけども!傷つかないわけじゃないんだけど!そう言いながら反論すると、急に三島が私の顔をじっと見る。え、なに、え。見られるのには慣れてなくて、思わず目をそらした。ちょっとドキッとするじゃん。やっぱ下まつ毛だけ、綺麗に長いなあ、三島。
「……まあ、ブスではねーか」
「は、はあ!?調子くるうなー」
「……野球部のやつがお前のことちょっとかわいいって言ってたけど」
「え、なにそれ!だれ!」
「あーうるせえ、むかつくから絶対教えねーよ」
「もしかして、三島じゃないの?」
「ばっ、ち、ちげーし!!」
「なーんだ、残念」
そっか。三島も私のことむかつくよね。ある意味相思相愛かもね。私はちょっと違うけれど。
三島がむかつく。すぐ怒ったり、女の子扱いしてくれなかったりするけど、私をこんなにも好きにさせていることがどうしようもなく許せない。
「ははっ、またやってんのか、仲良いなお前ら。付き合ってんの?」
「「ち、違いますよ!」」
「いや、息ぴったりだし」
なんて、たまたま通りかかった真田先輩にからかわれるのも全部三島のせいだ。嬉しいなんて言ってやるもんか。
トークアバウトユー_________
△title さよならの惑星
書きかけでずっと置いてあったミッシーマのネタをかきました。
160829 唇触@りりこ