「……そうではないかと思っていました」

「ハヤテは彼女の兄弟子だったな」

「ええ」


カカシの目からは、不遜に詮索するような視線は感じ取れなかった。寧ろ確認するような、安心したいとでも云うような口ぶりに、私は素直に返答した。


「……君は彼女の処分について長らく火影に抗議していたね。

勝手ながら当時の記録を探らせてもらった。悪く思わないでくれ。俺は君に敵意は無いし、できる限り協力したい」


きっと独自に調査したのだろう。いくら暗部の重要人物といえど、一介の忍びが覗き見るには些か厄介な資料と覚えている。目の前の銀髪がこれにかける労力は大抵のものではないと察する。

おそらく、などという生半な表現では足りない。確実に彼は協力者であった。臓器が持ち上がるような感覚がした。望んだ紐をようやく掴んだ。


「……もっと早くこの話を持ち出したかったくらいです」


私が肩を撫で下ろしながら緊張を解いて見せると、カカシも安堵したかのように、マスクをしていても端正と判る顔をはにかませた。


「確かに私は彼女の処分が罪状以上に軽くなるよう持ちかけていました。

……その様子だと知っているかと思いますが、当時以前から私たちの師匠は、精神錯乱状態でまともではありませんでした。門弟たちが居ない所で彼女が受けていたダメージは想像を絶するでしょう。

彼女は事の詳細を話そうとはしませんでした。それは尋問に関してもそうだったのでしょう。恐らく師匠の名誉が傷つくことは言いたく無かったのです。

そこから察するに、あの日もなまえさんは、無抵抗の父君を惨殺したということではきっと無いと思うのです。世間では憎さから殺しに至ったと噂されていますが、彼女は最後まで父君を愛していました」


なるほど、とカカシは頷いた。


「あの子は、今も人と繋がることを恐れているように見える」


暗部に入ってからの彼女の様子を簡単に語る彼は、どこか辛そうに眉を顰めた。きっと上司として以上に気にかけているのだと伝わる。

私はいくらか観念しなければならないと思った。彼が私たちの過去に足を踏み込むことを覚悟しなければならないと悟った。


「……先程尋ねましたね、治る見込みがないことをなまえさんは知っているのかと。彼女は知っていますよ」

「そうか」

「ええ。親しい人を亡くさないために、関わりを断つのでしょう」

「……それは、君が生を諦めているからでもあるんじゃないか」

「……そう、かもしれませんね」


あの日、病院で彼女と交わした最後の会話を思い出す。きっと死ぬのだろうと言われ、平然と是を返したときのなまえの顔。一瞬泣きそうに瞳が揺れていた。あれはきっと、認めたくなかったという表情だった。

私はあの言葉で、なまえの感情を否定してしまったのだ。それに思い至る頃には手の届かない立場に流れ着いていた。他人にこのことを指摘されるのは、なかなかに情けなかった。