美しく月が照らしていると思っていた矢先の雨音に、私は窓の外をちらと見遣った。
このような時間まで部屋に明かりをつけていることも少ない。明日も早くに出なければならなかったのだが、書くべき書類が思った以上に進んでいなかった。
特別上忍は木ノ葉の里の中でも一握りの忍のみが、火影から直接指名されて成ることができる特殊な階級だった。
同僚から推薦を受けた時には話半分に聞いていたのが、トントン拍子に通ってしまい、ついに辞令の文書を拝謁する運びとなったのである。
早速次回の中忍選抜試験の試験管として目を通さねばならない書類、規定その他記入事項が山になって手渡され、事務作業は嫌いではないと言いつつさすがに疲れた。
ゴホ、と乾いた咳が出る。
ここ数年輪をかけて病状は悪化しているが、感染るものではない。天寿があるというなら自分は全うするだけ、と病と分かった当初から割り切っている。幸いなことに家族と呼べる人間は居らず、病状を心配する者が居ないのは気楽だった。
ただ心残りがあるとすれば、自分の妹弟子であった彼女を置いて行くことだ。昨日彼女は二十歳になった。あの日の自分と同じ年齢だ。
三年前の事件があって以来面会は承諾されず、刑期が終わった今、彼女は暗部となった。ますます顔を合わせる機会など無くなってしまった。
訪ねて行こうにも足取りすら掴めない。本当にこの木ノ葉の小さな里に暮らしているのかどうかすら疑ってしまう。彼女はもう私など取るに足らなくなってしまっただろうかと思う。
ただそれだけを悔やむ。