ハヤテはどうしているか分からない。後悔していないとあの時言っていた。自分を恨んで良いとも、きっと本心で言っていた。
禊が済んでも顔を見せに来ない妹弟子のことなど、もう切った縁と思っているだろうか。それならそれで良い。
カカシの行きつけの屋台は、座ったそばから湯気が顔を撫でてぼんやり明るかった。それが心地よい。
麺の茹でる香りは久しくまともに食事をしていなかった胃を気遣うようであった。
ここの主人も、面をしていない私の顔を見るなり視線を避けたけれど、連れてきたカカシに文句は言わなかった。ああ守られてしまったと感じる。
後ろめたく思っている私の気を知ってか、彼は背中を一度だけ撫でた。
箸を持つ手は、道場で鍛錬をしていた頃よりよっぽど綺麗でマシになっていた。振るえば一撃必殺がみょうじ一門の剣技だ。実戦に出てしまえば呆気ないもので、充足感など得るには到底及ばない手応えである。
だから畏れられるのかと云えば納得もしかけるが、背後を取られればいつ死ぬか分かったものではない。私が未だ生きているのは運だと感じた。
死ぬときにこの傷も豆も無い手が肢体にくっついていればあの世までこの剣技を持って逝けるのだろうか、追い返されてしまうのだろうか。
生産性のないぼやぼやとした妄想も、食の前では透過されていく。差し出されたどんぶりに揺蕩う麺を黙って啜った。
その側からカカシが前触れなく喋り出す。
「……春から、俺、上忍に戻ることになったんだよね」
「え」
思わず隣で食べているカカシを見た。いつものマスクは首にぶらさがって素顔を晒している。端正な顔で麺を口に運んでいる様を、私は自分でも予想しなかった動揺に溺れながら、呆然と眺めた。
「アカデミー新卒生の担当上忍ね。
あのうずまきナルトとうちはサスケを同班にする話が出てる。今回ばっかりは班員がテストに不合格でも、暗部には戻れそうにない。
まあナルトは卒業が確定してる訳じゃないけど。」
「それでも、うちはサスケは、あなたが観るんでしょう」
「……そうなるねえ」
「……ではもう、私のお世話は終わりですね」
消え入りそうな声で言ったのを最後に会話は途絶えた。まるで葬式みたいな静けさで食べ終わり、黙ったまま歩き出した。