兄弟子だった月光ハヤテとは3年前の病院以来話をしていない。
同じ門下でありながら直系の妹弟子に師を殺されて居るのだから、世間的には彼は被害者なのだ。易々と言葉を交わすのも億劫である。
きっとあの人はそんなことを気にする柄でないということは知って居る。けれど顔を見てしまえば、あの池の鯉を思い出してどうしようもなくなってしまいそうだった。
ハヤテは真っ当な人だ。
火影に指名されて然る忍と証明されたことは喜ばしかった。意図せず被ったみょうじの流派の汚名もこれで流れたことだろう。ただしそれをどう言葉で表そうと、自身には許されないことだと思った。
黙り込んだ私にカカシは溜息を吐く。もっと喜んでいいでしょうとか、もう終わったんだから、とか私を慰めようとする。
そういう妄執から逃れる為に私は暗部へ入ったことを、この人はいつまでも理解しない。
「なまえ、今日どこに帰るの」
あの後、私は門弟たちへの慰謝料を作る為に道場も本邸も取り壊して家財は全て売ってしまった。
以来根無し草状態で、物好きの暗部の男に誘われるまま彼らの部屋で寝ていた。
自暴自棄になった訳ではない、と説明したところでカカシは本気にしない。2人での任務の後は必ずこうやって訊いてくる。適当な男の部屋を訪ねようとしている私を叱るような含みで言う。
「……カカシさんの所、良いですか」
「うん良いよ」
ラーメンでも食べてこうか、と面を外して微笑む目尻の皺が少しだけ好きだった。彼は私を部屋に呼びこそすれ、関係を求めようとはしない。
それに安心している私も情けないのだけれど、この身一つになってしまった顛末を思うと、今はカカシだけが私を案じる人だった。