今日の月は細い。薄い硝子に似て鋭角だ。面越しに見上げていると、頭上に気配が一つ降りて来た。カカシだ。もう後は片付けたのだろう。

刀を振って血を落とし鞘に収める。すっかり使い古して見事だった漆も剥げていた。それでも刀身の波紋は衰えない。さすが名刀と呼ばれる代物と感心する。


「完遂した。引き上げよう」

「……はい」

「どうした。いつにも増して静かじゃないの」

「……今日は三日月なのだなと思って」

「『月が綺麗ですね』って?」

「冗談やめてください。帰りましょう」


軽口な上司をあしらうが、この男はそんなことは屁でもないような顔をしているのだろう。面で隠れていても手に取るようにわかる。

それでも根の悪い人間ではないということはこの半年でよく知っていた。

親殺しはこの狭い里では罪状以上に疎まれた。禊が終わってから入隊した暗部内ですら、初めから顔が割れている状況には嫌気が差したものだ。

……カカシ班に配属されてからはそれも気にならなくなったが。

みょうじ一門と云えば木ノ葉でも貴重な古武術の一派と有名だっただけに、私を見る目は厳しい。父が狂っていたのは彼の名誉の為に公にはしなかったが、その父を殺したみょうじなまえの存在は現実以上に誇張されている様だった。

私の刀を見ただけで震え上がる者すら居る。まるで幻獣にでもなったかのようで笑えさえする。


「そういえば、なまえ」

「何です」

「誕生日おめでとう」

「……ああ、はい、どうも」

「成人祝いに教えてあげようか。ハヤテが特別上忍になったよ」

「……そうですか」


真っ暗な森を駆ける中、びゅうびゅうと耳元で鳴る風に掻き消されるかと思った声は、やけにはっきりと聞こえてしまうものだった。