「私は、剣を熱心に学んだことは後悔しません。あの日々は好きでした」

「はい」

「……なまえさん。あなたの状況を知っていながら放っておいたのは、あなたの強さを信奉していたからでした」

「はい」

「あなたは先生の娘なのに。

強さなんてものでどうこうできる代物ではないのだとどこかで分かっていたから、だから、私は昨日来たのでしょう」

「……」

「私を恨んでもいいんですよ。兄弟子として不出来な私を責めて報われる心があるのなら、喜んで差し出します」

「……そういうことは、もうどうでも良いのです」


あなたの優しさは沁みるけれど。私の脊椎に至る前に霧散してしまう。体内は麻痺して、もう思考も億劫になってしまった。

ただただ、終わってしまったという喪失感と、心の隅に灯る安堵だけで一杯なのだった。


部屋の入り口にいつの間にか姿を現していた上忍がハヤテを連れ出て行く。これから私は裁かれるのだと悟った。

さようなら。さようなら、幼い日々を過ごした人。彼の後ろ姿、その背に私と揃いの刀が無いのをぼんやりと見つめながら、去る人の温度が遠ざかって行くのを送った。

なにもかも白いベッドに横たわっても、目を閉じて蘇るのは、あの小さな池に泳ぐ淡い赤色だった。

ふたり並んで池の淵に座り眺めていると、決まって父は私たちの肩を抱いたものだった。

夢の中でだけは幼いままの私でありたかった。