「その、不恰好なんですが」
私が恥じ入りながら前置きをして渡した薄い缶箱を、ハヤテさんはにこにこしながら躊躇すらせず開けるものだから、私は見ていられなくて窓に顔をそらせた。
雪こそ降らないが、外は寒い。びゅうびゅう吹きすさぶ風の姿さえ見えるようだ。
「良いのではないですか?」
「そうですかね……」
相変わらずにこにこしたまんまの彼は、箱の中に数枚重なって入った海苔の一番上を取り出して空気に透かした。
ところどころ偏って色が濃い。この間の任務で向かった先で、誘われるがままに梳いた海苔だ。あちらの名産品なようで、どこの家のそばにも海苔が干してある姿は壮観だった。
だけれども私は素人にほかならず、わけのわからないまま梳いた海苔なんてのは不恰好にしかならない。
彼は珍しがるだろうなと思って抱えて来たはいいものの、自らの不器用さが今になって恥ずかしい。それを軽々と褒めてくれる優しさには痛み入るが、どうも私は納得いかなかった。
「食べてみたいですが、こんなに分厚いとあとで消化に障りますかね」
「眺めてもらえたのでもう良いですよ」
「もったいないですよ、せっかく作られたんですし。まあ医者に怒られたらそのときですね」
カラカラ笑いながら、ハヤテさんは手ずから海苔をちぎってひょいひょいと口に入れた。私があーとかえーとかいう前に噛み締めている。この人は病院に入ってからやたら慎重さが欠けたと思う。
「味はおいしいですよ。確かに噛みきれませんが」
「もう、お腹壊しても知らないですからね」
「そのまま持って帰らせる方が薄情です」
「ム……確かにそうですけれど」
ずっと長らく口をもぐもぐさせていたハヤテさんだけれども、観念してか熱いお茶で流し込んでしまった。私も一口二口たべて同様にした。ふだん食べる薄くてパリパリとした海苔は職人の賜物なのだと熟知する。
「あなた任務はこなせるのに、やたらと不器用ですからね」
「海苔梳きなんてしたことなかったですもん!いつかハヤテさんが梳いたとき、へたくそだったら指差して笑ってあげます」
「どうぞそうしてください。きっとそのときなまえさんは二回目ですからね、さぞ上手になってらっしゃるでしょう」
「あーあー、口のうまいこと」
残った海苔はやはり持って帰ると言うとハヤテさんは変な顔をして残念がった。どうせつまむならもっと良いものにしてくださいと咎めて病室を出る。
外はやはり激烈にさむい。強い風が私の外套をも通過して吹き付けるので、襟を立てて肩を抱いた。ふと振り返ると、上階の窓越しに彼が笑っているのが見えた。
私が震えている様をおもしろげに眺めるハヤテさんに「こらー」と上げた声も風に吹き飛ばされてしまった。