オートボット基地には、僕らのほかに二人、出入りできる人間が居る。

一人はファウラー捜査官。もう一人はその直属の部下だという、ミス・ミョウジ。明るい色の髪を短く切り揃え、いつもしっかりとしたパンツスーツを着こなしている。いかにも仕事ができる風な美人だ。

彼女の仕事は、忙しいファウラー捜査官の代わりに、オートボットたちを監視すること。彼女の送迎をしているラチェットは「協力者だ」と言っているけれど、どうにもミス・ミョウジの僕らへの風当たりはつよい。そりゃあ、彼女は若いと言っても大人なわけだし、国家機密を背負っている立場なわけだし、こんな子供を相手にするのはストレスでしかないだろうけど。それでも、同じ人間なんだから、もうすこし我儘言ったっていいんじゃないかな。

そう安易に口にしてみると、隣でゲームしていたミコがいきなり僕を睨みつけるもんだから、ビックリした。コントローラーを握りしめたまま。ああ、画面では運転手を失ったスーパーカーが追突されている。


「ジャック、ちゃんとナマエのこと見てんの?」

「はあ?」

「好きであんな態度とってる訳ないでしょ!」


強い口調で言われ、思わず圧倒されてしまった。


「あの人は私たちなんかよりずっと長くトランスフォーマーを知ってるんだよ。クリフジャンパーが死んじゃったことも、メガトロンが復活したことも、私たちなんかよりずっと重く感じてるんだよ」


吊り目をさらに吊り上げて、頬を膨らませながら、ミコはコントローラーを握りなおしてものすごいドリフトをキメた。


「ナマエってものすごくいい子なんだよ。あのラチェットがあんなに信用してる人間なんて他に現れないんじゃないかな」

「どうしてわかるのさ?」

「女のカン!」


怖い顔をしながらレースを完走したミコがガッツポーズする。僕は携帯のメモに「女のカン」を登録して、コントローラーに持ち替えた。