衛星にアクセスしても、ナマエの姿が感知できなくなってしまった。
任務中そのことに気付いたが、まさかメガトロンの命令に背くわけにもいかない。頭の機能しないデストロンたちに内心舌打ちしながら任務を遂行して、基地にカセットを置いてあの田舎の物置小屋へ向かった。
いつもならこの時間に姿の見えない彼女の両親が、何やら口論しながら部屋の中を落ち着かない様子で歩き回っていた。音を消しながら人の気配の無い物置小屋へ滑り込む。これだけ距離が取れれば問題ない。彼らのブレインスキャンを開始する。
あまりの感情の起伏の大きさにめまいがするかと思った。
まずサーキットに流れ出してきたのは動揺。そして苛立ちと怒りと……
感情の感知に割いたおかげで詳細を読むのになかなか時間がかかった。しかし、ゆっくりと現状が紐解かれていくにつれ、今まで味わったことのないような失望感に包まれていった。
彼女は今朝早くに死んでいた。
自身の部屋の中で、昨日からのあの制服を着たまま、大量の薬品摂取で眠るように死んでいた。朝の光の中で、少ない家具と、さわっていない机の上のノートや教科書と、ベッドの上の小さなぬいぐるみに囲まれながら。
それを彼らが知ったのは、彼女の母親が学校からのいつもの電話を受けてからだった。教育主義らしい母親はナマエの不登校を恥だと思っていたのだろう、怒りを露わにしながら職場の休憩を利用して帰宅すると、そこには自分の娘が意識なく横たわっていたのだ。
フレンジーやランブル等のような存在はあるにしろ、我々には、子供を持つ、という概念は無い。無いなりに色々と推察するものの、この両親から得られる情報は、ごく少なかった。社会的立場と伴侶との関係、葬儀の費用、今までの養育費、子育てからの解放感、子供への失望、怒り、悲しみ、苛立ち……
それくらいだった。
ただただ、喪失感と、嘲笑が込み上げた。