サウンドウェーブは誰にも内緒でわたしに会いに来てくれる。
本当は彼にも仲間がいて、その小さなカセットたちはいつも基地に置いてくるのだと言う。わたしはなんだかそのことがひどく嬉しくて、自分より数倍大きな機械の身体に擦り寄る。冷たい金属の機体はやがてわたしの体温と同調していく。それを待つ間にも、サウンドウェーブは喋らない。でもそれが気まずいとか、つまらないとかは、全然思わない。
サウンドウェーブがわたしにしてくれるのは、素晴らしいお話とか、ダンスとか、プレゼントではない。ただそこにいて、わたしが好き勝手彼の機体をよじ登ったり喋ったり眠ったりするだけだ。ただ、それについてたまに、何か言ってくれるだけで、わたしはすごく幸せで、ああこのままで居たいと思う。
「ナマエ、ソロソロ……」
「もうこんな時間なの?ねえサウンドウェーブ、まだいいでしょ」
「ダメダ、マタ明日会オウ」
わたしの家はひどい田舎だ。その古びた物置小屋がわたしたちの秘密の場所。両親は毎日都会まで働きに出るから、わたしは彼らが帰ってくるまでこの寡黙なロボットと過ごす。本当は学校に通っていなきゃいけないんだけど、ああいうところは好きじゃない。今まで何度も無断欠席して両親は学校に呼び出しを食らっている。それについて行かされるたびに、ますますあの教育施設が憎らしくなるのだけれど。
「明日ハ、学校ニ行ッテカラダ」
「そう言って毎日会ってくれるくせに。偽善者」
「ナマエ」
「……わかってるよ。ばいばい、サウンドウェーブ」
小屋のシャッターを開けると、夕暮れの赤い日差しが目に染みた。いつもいつもこの瞬間が苦しい。嫌でも明日が来ることを思い知らされる。サウンドウェーブが来てくれるまで死ぬほど孤独と向き合わなくてはならないことを悟らされる。
彼の影が黒い点になるまで見送る。今日も行くことができなかった制服のスカートを握って、唇を噛んだ。