※TF主人公、片思い
あんたはばかだねえ。そう言って笑う私を、恨めしそうに見上げている赤い瞳。
スカイワープが賢くないことなど誰もが知っているし、今に始まった話ではない。それでも本人は、とても不服という顔を崩さないから、私は取り繕った態度の「ごめんね」で場の空気を濁した。
スカイワープがアストロトレインとの賭けに負ける様子を、他のデストロンたちに混じって眺めていた。すっかり機嫌を悪くして基地内の私室へ戻る彼の後をついて、私も鉄の床を踏み鳴らす。それはそれはわざとらしく。
スカイワープはその悪趣味な騒音を聞かないふりをして、さっさと部屋に入って、扉を閉めようとした。けれど私がその隙間から彼の顔を伺おうとしていたので、少しは期待もしたようだった。
「からかいに来たってんなら、殴るぞ」
「まあ!気が変わって純粋に慰めてあげるかもしれないのに」
私のでたらめを真に受けたわけでもなさそうだったが、スカイワープは赤い瞳をじっとりと歪ませながら、結局は私を迎え入れた。そして、私の方を気にしないように努力しながら、賭けに負けた分のエネルゴンを律儀に取り出し始める。
そんな簡単にしていたら、あの高慢ちきなアストロトレインなんて付け上がるだけなのに、このデストロンは素直だ。
だから、ばかだねえとも言うのだ。ばかに誠実だねえ。
「スカイワープのばかな部分を10個集めたら、たぶんサイバトロン兵士1人くらい出来上がるだろうね」
「そりゃあ、どういう意味だよ」
スカイワープはばかだけれど、たまにそれが痛いほどに沁みる。なんて誠実で純粋なのかって。
私はそんな感覚を、もう何百万年も前に忘れた気でいたのに、彼を見ていると思い出してしまいそうになる。疑いや悪意や、ありとあらゆる建前を知らず、ただただ正直だった頃のこと。
スカイワープがどうしてこんなに、高潔な幼さを持っているかというと、本当にただ、みんなよりブレインの作りが悪いからなのかもしれない。だとしたらそれは一つの奇跡だ。デストロンの他の誰もが得ることのできない感覚を、スカイワープは孤独に抱き続けている。
私は彼が好きだった。たまに泣きたくなるほど正直な彼が好きだった。私はといえば、デストロンの名に相応しい嘘や欺瞞を、すっかり身に付けている。
「ねえ、スカイワープは特別だね」
「なんでい、お前に言われると気味が悪ぃや」
「私はあんたにすら、ずっと正直じゃいられないのに、あんたは嘘をついたことがないね」
「お前に嘘ついたって、意味ねえだろ」
こちらを振り返り、「すぐに分かっちまうんだから」とぶつくさ言いながら尖らせた唇に、私はほんの一瞬の口付けをした。
あんたは聡いよ、誰よりもばかだが、誰よりも信じられる奴だよ。そう言いたかった。けれど私が口にすることは、もはや誰にとっても半信半疑だ。だから、代わりに無言で口付けた。
「からかいに来たなら殴るって、言っただろうがよ」
「あはは!ごめんなさいね、軽率で!」
歯を剥き出して威嚇するスカイワープ。慌てて私は、表面上の笑顔を咄嗟に作りあげて身を離した。いつも彼を挑発してばかりだから、警戒されて当然なのだ。私の振る舞いがスカイワープを苛つかせているのは分かっている。そして私だって、それは故意にやっている。
だからこんなことで「実は傷ついている」などと告白するのはお門違いだ。私はスカイワープの想像する私のままいなくてはならない。軽率で、悪趣味で、平気で嘘をつくデストロンの姿でなくてはならない。それが気安い態度なのだ。
両手いっぱいにエネルゴンキューブを抱えて、肩を落としながら自室を出るスカイワープ。その背中が消えるまで無言で見送った。
ばかな奴。スカイワープもだが、私も大概そうなのだ。本心を語ってキスできたら、わずかでも何か違うだろうに、笑ってごまかして、からかって演じるのをいつまでたってもやめられない。
ああ、ああ。本当に嫌になる。永久にばかな奴。私は口の中に停滞していた排気を、最後に貼り付けた笑顔のまま吐き出した。
「あはは……」
予想に反して泣き声だった。私は本当に、あいつの事が好きなんだ。