ナマエが死んでしまう、と思った時、僕は今まで通過してきたどんな任務よりも強い恐怖に全身を凍らされたような錯覚がした。

敵のカウンターをまともに喰らい、肩から腹にかけてザックリと刀傷を受けたナマエを間一髪離脱させたまではいい。バイオシップまで距離がある上、彼女の出血量はおびただしいものだった。

僕はナマエを抱える腕や、傷口の接する身体が真っ赤になるのも厭わず走った。どんどん温度を失っていく手の中の生命が恐ろしかった。それでも僅かに瞳をみせたナマエが、今まで見せたこともないような穏やかな顔をして笑い、「ロビンは優しいね」と息だけで呟くから、僕は死んでも彼女を助けるという意思を保てた。

シップに搭乗し、ケープを裂いて最低限の止血を試みたあとも、僕は彼女の血まみれの手を握り、語りかけ続けた。「君の我儘も暴言も、なんでもきいてあげる」「こんど家に招待する」「マスクの下だって見せる」「だから絶対眠らないで、僕の話を今はきいていて」。

マウントジャスティスのベッドで目を覚ましたナマエの額に、思わず口づけをしたとき、チームのみんな言葉を失っていたけれど、ナマエは僕の手を握り返してくれた。それでもう、全部だ。君はもう僕になにも与えてくれなくていい、そんな気分だった。

「13歳のくせに、キスだなんて」病床で口を尖らせた彼女に、愛おしさ以外の感情はたちまち失せてしまっていた。